ひるがえって「踊る大紐育」を見てみたい。

冒頭摩天楼の遠景から早朝のブルックリン港を俯瞰から広く撮し、その中をクレーンの運転手がのんびり歩きながら “まだベッドにいる気分” を歌っている。広々とした映像が観る者の心をほぐすと共に、ロケーションによるドキュメンタリー感が物語の真実味を強める。すると突然テンポが上がり、水兵達が賑やかに軍艦から駆けだしてくる。主人公ら三人は快活に“ニューヨーク、ニューヨーク”を歌い出す。

カメラは三人の正面やや下から仰ぎ見るように撮影している。観客も空を仰ぎ見るような感覚になり、希望に溢れた感情が呼び起こされる。ここから細かいカットで名所巡りが始まる。歌と音楽に乗せながら一ヶ所を数秒から十数秒で紹介していくスピード感に、三人の楽しさや仲の良さが同時に表現される。ナンバーが終わってスタジオ内のスクリーンプロセスを使った演技になるが、当時の技術としては背景の街との違和感が少ない。

続いて楽しいエピソードが続く。地下鉄のホームで名所への行き方を尋ねるたびに、相手の返事が電車の轟音にかき消されるギャグ。電車内で席取りを邪魔する子供やおしゃべりな女性。それぞれが次々と小道具になって飽きさせない。

車内に貼られた「六月のミス地下鉄」のポスターを見てジーンはヴェラ=エレンに一目惚れするが、ポスターの彼女は当時二十八歳。後年の痩せ気味の体形とは違う溌剌とした外見で、彼が一目惚れするのも当然と思わせる説得力がある。

ここからジーンが彼女の生活ぶりを空想する “ミス地下鉄” のナンバー。初めは家事をする姿を優雅なバレエ風ダンスで描き、最後はスポーツをする姿をテンポ良く描いて盛り上げる。ジーンの憧れを表現すると同時に、彼女の魅力とダンスのレパートリーの広さをアピールするシーンでもある。同じような趣向が後に「巴里のアメリカ人」でレスリー・キャロンの紹介シーンにも使われている。