上半身はまだそこそこ筋力がありそうだけど、肉が付いたのは……やっぱ腹か。まだそう見えないだけましな気がする。

「なんか一人振り回されてるみたいね」

そう、新入生の中でも、お前は打てるからと、人より走らされているのは事実だ。

「期待されてる証拠じゃない?」

また心にもないことを言って、ケラケラ笑っている。しかし何事もないようにケロッとしている春田に比べるといくらなんでもだらしない。

テニスサークルに入って一カ月。ようやく先輩にも、同級生にも(すでに辞めた人も多いが)、システムにも慣れてきた。おまけにこうして、何もなければまともに目を合わせられない春田とも、わずかな緊張だけで話せるようになった。

もともと何かにつけて真面目な春田は熱心で休むことはない。彼女が来るから、当たり前に休みなく来ている僕とは、同じ学部学科ということもあるのか、ここで話をする機会は多かった。

それも、最初は挨拶程度の会話だったけど、今ではその内容も豊富になってきていた。意外なことに主に春田がしゃべってくれるので、僕はそれに相槌と突っ込みを入れればよかった。

もちろんその方が楽だったし、彼女も楽しんでいるようだった。そんな姿も見られる水曜と金曜のこのベンチでの休憩時間が、次第に待ち遠しくなってきていた。

おまけに最近は僕をからかってくることもある。そんなのも新鮮で、僕にはそんなくせがあるのかと思わなくもないのだけれど、やはり嫌ではないのだ。

「あれ、沢波くん、え? テニス?」

テニスコートに張り巡らされているネットの外から不意に聞こえた声に、僕も春田も同時に振り返った。

「あら、木下さん」

そういえばこのコートは経済学部のすぐそばにある。ネットサイドの通路はその学生の通り道になっているのだ。

木下和はネイビーのチノパンにパーカーを羽織って、リュックを背に金網によりかかっていた。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『桜舞う春に、きみと歩く』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。