大丈夫。いつか春がやってくるから
第一志望の大学で充実した日々を送る沢波俊樹。
サークルで出会った、一見クールでひときわ美人な春田恵美と、高校時代からの友人で気心の知れた木下和との間で揺れ動く心。
そんな彼に、恐ろしい病魔が迫っていた――。
青春のときめき、切なさ、葛藤、温かさを爽やかに描いた、感動の純愛小説を連載でお届けします。
春の出会い(邪気:100 代謝:80 正気:80)
僕のアパートから二分ほど歩いた大通り沿いに中規模の本屋がある。夜十時と遅くまで開けてくれているので、本好き本屋好きには大助かりだ。
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学生街にあるためか、漫画や雑誌(いわゆる大人のものも含む)が多いが、新書や文芸書の品ぞろえも充実しており、店を見つけた当初から二、三日に一度は来ていた。
いつも夕食後に来るんだけれど、そんな時間にもかかわらず賑わっている。ネット全盛期でも紙の本好きはいるのだ。
今日も近くの格安ボリュームたっぷりの中華料理屋で、回鍋肉定食大盛り+餃子という強力にご飯が進むメニューを平らげた後、何かめぼしいものはないかと物色しに来た。
本屋というのは不思議なところで、何度も来ていると、なんとなくだけど置いてある本を覚えてしまう、気がする。それでもなぜか来たくなるのは、本のインクの匂いに惹かれてしまうからだろうか。店に入った直後に感じるあの匂いは結構好きだ。
いつものように入り口付近の新刊本のコーナーから文芸書の方に移る。とりたてて気になるタイトルの本は見つからない。とはいえ、普段から科学新書的な本はよく手にするけれど、『ぶんがく』は素通りすることが多いのだ。
それでもいつもの流れで平積みされている本を眺めながら奥へと進む。
「あれ?」
同じ通路で本を手にしている、ジーンズに白のスニーカー、細い足の女の人が僕の頭の上で疑問の声を上げた。ふと斜め上を見上げる。
「沢波くんよね」
「え……木下さん?」
目が合うと、二人して口元がにーっと持ち上がる。高校のときに同じクラスだったことがある木下和(きのしたなごみ)。
京史大学の経済学部に来ていることは知っていたが、高校時代にはあまり話をしたことがない。もっともクラスのすべての女子とほとんど会話した記憶もないんだけれど。
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指
数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。