あーだこーだ、どーだこーだ。ばっかじゃねぇの。本を読まないからって、俺らが何にも考えてないって思ったら大間違いだ。

紙の本、というかたちで読むやつが減っただけで、みんな自分の気持ちを、感情を、説明のつかない心の動きを、代弁してくれる「言葉」をいつも探してる。

ネットでみつけることもあれば、たまたま聴いた歌のフレーズだったり、テレビや映画で誰かが発したセリフだったりする。

「言葉」で何かに気づいて、そいつの人生が変わることもある。大事な言葉は、バッテリーが切れてもそばに置きたいから、滅多に買わねぇけど、本だってきっとなくなんないさ。俺たちが、言葉を話す、生き物でいる限り。

- - - - - - - ドラム・ソロ- - - - - - -

数日後、部活のミーティング・ルームで二人を待っていると、スパイス・ガールズのリーダー山口綾がやってきた。

いわゆる癒し系、ではなく威圧系。やり手だ。

「ねっ、ちょっとお願いがあるんだけど」

「どうした?」

「ドラムの子が体育で手首痛めちゃってさ。佐和ちゃん貸してほしいんだけど」

「ドラムって、平野? 俺、入ろうか」

「ううん、佐和ちゃんがいいの」

「いいよー」

スティック・ケースを肩から下げたサワがちょうど部室に入ってきたとこだった。

「よかった。話が早いわ」

「何時から?」

「視聴覚室で16:30から。SHISHAMO知ってる?『明日も』と、『量産型彼氏』」

「知ってる。『明日も』は、けっこう好き」

山口がチラッと俺を見る。なんだよ?

「それじゃ、あとで。必ず来てね」

含み笑いして去っていった。あいつは圧が強いからな。確かに断りづらいけど。

「SHISHAMOも叩けんの? 守備範囲広いなオイ」

「もう1曲の量産ナントカは知らないけどね、せっかく声かけてもらったから。あと40分しかない、チェックしなきゃ」

とスマホを取り出す。

「俺も見に行っていい?」

「うん、多分大丈夫。ちょっと行ってくるね」

いつも遅れてくる雄大を呼び出し、防音の視聴覚室にいくと、同じ軽音のメンツが12~13人集まっていた。