- - - - - - - ドラム・ソロ- - - - - - -

まず、スパイスのベースの子が、ライドシンバルをスタンドごと持っていった。ライドがなくなったので取られたときにやっていたビートのキープをハイハットにシフト。

そのあとで次に取られるやつを予測したのか、フロアタムを使ってジャングルビートを始めた。息を詰めて観ていた皆から歓声が上がり、異様な盛り上がりだ。スパイスのドラムの平野がフィルインの合間にフロアタムをよいしょっと持ってった。

オイオイ、手首痛めてたんじゃないっけ? タムタム一個ずつ、トップシンバル、ハイハットと取られていき、遂にバスドラとスネアだけになった。この頃にはもう盛り上がった連中から謎の手拍子と掛け声が。

ハイハイハイハイ!!!!!

ついにスネアだけになったサワはロールの連続で途切れることなく叩き、スネアを運ばれたあとは自分の脚を叩き、最後に立ち上がって自分でドラムスツールを運んだ。上気した頬に汗を光らせながら仮設ステージに戻り、ペコリとお辞儀をした。

ヒューとかヒョーとか裏声混じりの大歓声が飛び交うなか、俺はサワを見つめていた。

びっくりして口を開けっぱなしの雄大と、顔を見合わせた。ツールがたくさんあれば、くまなく目一杯使い、なければないで、その不自由さを楽しむ。

以前、ドラムセットの構成についてサワが話していたことがよみがえった。やっぱ天才。すげぇわ。俺らと全然違う。それにしても、結果オーライだけどこの無茶ぶり、てか嫌がらせはなんだったんだ?

「山口、ちょっといい?」

皆が機材を部室に戻す間、声をかけた。

「今日の、説明してくれよ」

「いやー、凄かったね。困らせようと思ったんだけど、完全負けたわ。やっぱ上手いねあの子」

「だから、なんで嫌がらせしたんだよ」

「椎名と佐和ちゃん、付き合ってんでしょ? こないだデートしてたやん」

「映画館の? デートじゃねーし」

「うそだね。ペアのパーカー着てたじゃん。うちの真侑がショック受けて…ここんとこ練習になんないんだけど」

「真侑って平野?」

マジか。そういえば猫が調子悪いって最近…

「最近よく連絡とってたっしょ? 思わせぶりなことすんじゃねーよ!」

思わせぶり? そういえばここんとこ朝、よく会うから一緒に登校したり、LINEもしてたな。

「大丈夫か?」

「〇〇病院いいらしいぞ」

「大丈夫だよ。飼い主がしっかりしなきゃ」

「よかったな」

くらいしか返せてないが。

??

「そんなら、俺に文句言えばいいだろう。なんで臼井に攻撃がいくんだよ」

「真侑が、佐和ちゃんが軽音からいなくなればいいのに、って言うから」

ハァ? なんだそれ。

「言っとくけど、俺ら付き合ってないから。服が被ったのもたまたまだし、臼井にあたるのはお門違いだ」

「…」