生命の崇高と人体構造の神秘を描き切る傑作。

ほぼ100日、約3カ月におよぶ正統解剖学実習。死者と向き合う日々のなかで、医学生たちの人生も揺れ動いていく。目の前に横たわる遺体（ライヘ）は何を語るのか。過去の、そして未来の死者たちへ捧ぐ、医療小説をお届けします。

第2章　乳房が簡単にずれて、はずれる。筋肉や骨を切断する

実習書に曰く、生（なま）の骨と固定後の骨には硬さにたいへんな違いが有り、生の方はもっと楽に切断できるらしい。

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道理で素人でも、バラバラ殺人などができるわけだ。やがて、直径２㎝ほどの鎖骨は切断されて、断面を見せた。外は陶磁器のように純白だが、中は暗褐色をした骨髄が詰まっている。尖ったもので骨髄を掻き出して、触ってみるとざらざらした砂のような感触だ。

おい、みんな骨髄ってこんな事になっているぞ、残りの三人に報告する。ふうん、と言うだけで三人は僕のようには感動しない。

ひょいと実習書をのぞき込んだ高尾は言った。

骨髄を観察せよとあるけど、中まで穿（ほじく）れ、と本には書いてないよ、余計な事しないで早く次に行こう。決してみんなより進んでいるわけじゃないんだから。

僕はその言葉にがっかりしたが、高久と田上も頷くので、従った。