弥生編

秋が深まると、誰もが楽しみにしている、漁祭りが行われる。普段は、取引の時以外あまり交わらず、半ば意図的に半ば自然と活動範囲が分かれている丘者と里者だが、この時ばかりは双方の若者たちが共同で行うのが習わしになっており、夏の間に、麻を編んで網を用意するのは里の、山から木を切り出して筏や丸木舟を作り、時が来たら川を下って浜まで持って来るのは丘の仕事である。

朝、浜に集まって賑やかに騒いでいる若者たちを、およそ十数の舟に割り振り、湾の中で散らばるべき方角を指示したのは、アトウルであった。舟を操るのは、手足の長い丘の若者たちだが、網を扱うのは、頬に入れ墨を施した里の若者たちである。既に知った仲も少なくなく、そのような者たちは率先して組となった。

アトウルは波打ち際まで行き、両手を海の水につけ、ついで水平線を見ながら両手をかざして、大きな声で祝詞を唱えた。丘者たちはもちろん、里者たちもアトウルに続いて両手をかざし、言葉が出来る者は、ゆったりとした唱和に加わった。

丘者たちにとっては、海は大いなる神の一つであり、里者たちも、海の恵みと漁の無事を祈念することに異議はなかった。それが済むと、アトウルは、これまでとは違ったやり方をすると言って若者たちに説明し、丘の言葉の分かる何人かの里の若者が通訳をした。