「母には幸せでいて欲しいから、邪魔したくないの。会うわけないわ」
「会いたい時もあるだろ?」
「プーさんがいるもの。家を出ていく時、母が縫いぐるみのクマのプーさんをくれたの。今もそれを抱いて寝てるわ」
「やっぱり、君はお嬢さんだ」と言って神矢が笑った。
「ねぇ。絵はいつできるの? いつ見せてくれるの?」
「まだまだだよ。できあがったら、君のヌードを見られなくなる」と言ってまた笑った。
「今日はもういいよ。さぁ、服を着て、こっちへおいで」と言って、神矢は画材を片づけ、ダイニングに行ってしまった。

私は服を着て、彼のあとへ行った。「お飲み」と言って、いつものコスタリカを置いてくれた。

「『ココ』へは行ってるの?」と私は聞いた。
「あぁ。君のいない時にね」
「どうして避けてるの?」
「さぁ、どうしてかな? 君はやっぱり毎日お昼に行ってるらしいね」
「マスターから聞いてるのね」
「いつも、ステンドグラスの窓の下の席に座ってる」
「そうよ。私の心の教会よ」
「何を祈ってるの?」
「ひ・み・つ!」

貴方が幸せであるように……そんな事、言えなかった。

※本記事は、2019年6月刊行の書籍『愛』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。