太郎のことはひとまず置いておく。ぼくが語りたいのは、ある街角の不思議についてだ。それは「徴古堂(ちょうこどう)」という骨董屋のことだ。

その骨董屋は、ラーメン屋の横の露地を入ったいちばん奥にあった。実を言うと、福寿軒を知った後も、その露地の存在さえ、ぼくはそれまで気付かないでいたのだ。

それを教えてくれたのは鴇子(ときこ)だった。土曜日の午後、彼女に引っ張られてその店に行ったのだ。

「ねえ、徴古堂っていう骨董屋があるけど、行ってみない」
鴇子はいつも強引だった。高校生にしては小柄で、小学生みたいだが、横柄で傲慢な彼女は、いつもこちらの都合など無視して気ままに行動する。

「とっても素敵なんだ。古い歴史がいっぱい詰まっていて、時計だとか、絵皿だとか、飾りのついた西洋タンスだとか……昔の人が話しかけてくるような……」

ぼくは途中から、鴇子の話は聞かないようにしている。彼女は自分の世界に入ってしまうと周りのことが見えなくなり、ひとり酔ったように語り続ける。だいいちぼくには骨董のウンチクがさっぱり分からない。

その徴古堂の前に立ったとき、不思議なことに、ずっと昔にここに来て重要な経験をしたように思えた。古色蒼然としたこんな骨董屋などに興味なんてまるでないのに……屋根の上に朽ちかけた看板が架かっている。達筆すぎて読めないが、徴古堂と墨で書かれているであろう字がぼくたちを見下ろしていた。

「ねえ、ねえ、いいよね、しびれるよね」と鴇子は目を輝かしている。

「何が?」ぶっきらぼうに相槌を打つが、少々面倒臭い。

鴇子の視線の先のショーウィンドウに、大きな壺がでんと置かれていた。

「信楽よ」
「シガラキ?」

「決して派手ではないんだけど、肌合いも良くって、渋くって」
鴇子はガラスに額を押しつけ、その壺をじっと見つめている。

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。