新兵

徴兵された杉井謙一は、予備士官学校における過酷な軍事訓練の日々が続いていた。入営した兵は、三ヶ月後に第一期の検閲を経て戦地に送り込まれる。軍隊における幹部候補生の有資格者は中学校卒業以上。志願制とはいえ、半強制的に志願させられるというのが実態だった…。

将校を目指し、昇進していく可能性のある立場

この頃の日本陸軍には三種類の将校がいた。

第一グループは一兵卒からのたたき上げである。プロを目指して一等兵、上等兵と一段ずつ階級を上げていき、次に兵長となるが、ここまでで最低二年かかる。その後、伍長、軍曹、曹長と下士官を五年歴任して准尉となる。

この段階で少尉候補者となる試験を受け、合格すると陸軍教導学校の教育を受け、卒業して少尉となる。少尉となる試験は難関で、合格するには相当な努力が必要であり、またこのたたき上げグループは昇進に必要な期間も長く、順調にいっても、少尉になるには十年はかかる。

第二グループは幹候と呼ばれる幹部候補生の将校である。中学校以上の卒業者で一般兵とともに入隊し、三ヶ月後の検閲の際、試験を受けて合格すれば幹部候補生となる。その後六ヶ月の特別訓練があり、再度試験を受けて甲種と乙種に分けられる。甲種は将校候補となり、予備士官学校に入学し、乙種は下士官として引き続きその連隊に残ることとなる。

甲種は予備士官学校で九ヶ月の特訓を受け、卒業と同時に陸軍曹長、見習士官となり、三ヶ月後には少尉となる。平時の場合はここで退役して自分の職業に就くなりして予備役編入となる。

戦時の場合は、予備役編入即召集で引き続き兵役に就くが、この場合は二年後に中尉となる。その後大尉に昇進し、召集解除、退役となって少佐に進む者もある。

杉井はまさにこのグループであり、今後の試験等の結果次第では、将校としての昇進を目指していける可能性のある立場にあった。