自身の出生に隠された真実を知るために、ある絵を追い続けているエリザベス。奇しくもポルトガルで彼女と出会い、その追跡劇に加勢することになった宗像(むなかた)は、ロンドン在住の美術評論家である友人・心地に電話し、協力を要請する。いつも冷静な宗像が無理難題を押し通す姿に何かを悟った心地は、協力を約束。すると突然電話の相手が変わり…

ここでの手がかりはもうない。宗像の新たな提案とは…?

「もしもし心地さんですか? 私、エリザベス・ヴォーンでございます。父の葬儀にはお忙しい中をありがとうございました。ちょっと複雑な問題が起きまして、いろいろご面倒をおかけしますが、どうぞよろしくお願い致します」

「エ、エリザベス・ヴォーンさんですか? 心地です。はい、殆ど雲をつかむような話ですができるだけやってみましょう。いずれ近いうちにロンドンでお会いできればと存じます」
思いがけない相手が電話に出たので、心地は急に声の調子を変えた。

「エリザベスさん、コインブラまで来ましたが、ついにここで手がかりがなくなりましたね。これで考えられる方策は一つしかありませんよ。いったんポルトに戻って、フィレンツェのコジモのところに行くという案です。どうもこの一件、彼が一番深い事情を知っているようですからね。まあ……でも……これは、あなたのとてもプライベートな問題ですから……私はご遠慮すべきことかもしれませんが?」

「そんなことはございませんわ。しかし宗像さんにしても、何という不思議なご縁でここまで来てしまったのでしょうね。せっかくの貴重な休暇ですのに、私などにお付き合い頂いて宜しいのでしょうか?」

「私には休暇がまだ一週間残っています。不思議な糸に引かれてコインブラまで来てしまったことには違いませんが、何よりもフェラーラの絵に興味がありましたからね。偶然、ロンドンでフェラーラの絵に出会って……。そして、その後あなたにも巡り会った……。もし、お嫌でなければご一緒させてもらえませんか?」

宗像は淡々と話した。