しかし、高齢になるほど診断が難しくなります。そこで行われるのが「タップテスト(髄液排除試験)」です。これは、腰部脊髄腔から少しだけ(30ml程度)髄液を抜くことで、症状が一時的に改善するかどうかを確認する検査です。

この検査から数日~1週間後に歩行の改善がみられれば、手術によって治療ができると判断します。

特発性正常圧水頭症には現在のところ有効な薬がありませんので、髄液シャント手術による治療が基本となります。具体的には、髄液を脳以外の場所へ少しずつ移動させるための細い管(シャント)を、体の中に埋め込む施術です。

この手術には大きく分けて次の3つがあります。

脳室−腹腔シャント手術:脳室から管をお腹の中に入れ、髄液を腹の中に逃がします。
脳室−心房シャント手術:脳室から心房(心臓)に管を通し、髄液を血液にのせて逃がします。
腰部−くも膜下腔腹腔シャント手術:脊髄の腰のあたりから腹の中に管を通し、髄液を腹の中に逃がします。

いずれの手術によっても認知症の症状が劇的に改善するケースがほとんどです。とはいえ、手術効果が認められない、効果が一時的、認知症の改善や客観的な介護度の好転が認められないといったケースもあります。

これは、水頭症だけが認知症や軽~中重度・要介護度の一元的な原因ではなく、高齢化による複合的要素(フレイル:虚弱)が併存するためです。手術だけでは、認知機能や身体機能の改善、若返りまではカバーできません。

[図1]特発性正常圧水頭症のMRIとCT

↑手術前MRI(左図:冠状断中央図:水平断)と手術後CT(右図:水平断)。

画像所見としては脳萎縮の像を示しているが、特発性正常圧水頭症のMRI冠状断(左図)の円蓋部(てっぺん部分)では脳の萎縮がなく、むしろ脳が密に詰まっているのが特異的な所見である。

70代半ば男性。既往症:高血圧、糖尿病、頸椎症2年前に手術、腰部脊柱管狭窄症。現病歴:半年ぐらい前から歩行障害(よたよた歩く)。最近もの忘れが多い、名前が出てこなかったり、ついさっき話していたことを忘れたりする。社会生活に大きな問題を起こすことはない。尿失禁はない。歩行障害があり、酩酊歩行(wide-based gait)で、歩幅は小さい。方向転換に6歩要する。

※紹介している治療法等は、著者が臨床例をもとに執筆しております。万一、本書の記載内容により不測の事故等が生じた場合、著者、出版社はその責を負いかねますことをご了承ください。 また、記載している薬剤等の選択・使用にあたっては、医師、薬剤師等の指導に基づき、適応、用量等は常にご確認ください。

※本記事は、2018年5月刊行の書籍『改訂版 認知症に負けないために知っておきたい、予防と治療法』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。