第2章 医師は認知症をどのように診断するのか?

認知症の鑑別診断
~少ないが、予防・治療可能な認知症がある~

認知症の多くは神経変性疾患に起因するので、その進行を遅らせることはできても、治すことはできないのが現状です。

しかし認知症の原因の中には予防、治療可能なものが含まれているので、見逃さないことが大切です。

認知症の原因である病気の中で、外科的治療の対象となるものとして、特発性正常圧水頭症(3つの徴候としてもの忘れ、歩行障害、尿失禁を呈します)、慢性硬膜下血腫(高齢者の軽微な頭部外傷後には常に念頭に置く必要があります)、脳腫瘍(高齢者の前頭葉腫瘍、特に髄膜腫)の3つが代表的です。

認知症を来すその他の病気としては、てんかん、甲状腺機能低下症、ビタミンB群欠乏症、高カルシウム血症、神経梅毒、HIV感染症、薬物や毒物、進行性核上麻痺、パーキンソン病、ハンチントン病、クロイツフェルト・ヤコブ病などがあります。

全身状態を正確に診察し、認知症の原因となる病気を鑑別するための検査項目は、甲状腺ホルモン、カルシウム、ビタミン濃度、梅毒やHIV抗体(エイズ:後天性免疫不全症候群)、電解質、血糖、CK(クレアチンキナーゼ)、心電図、胸部エックス線撮影などです。

◎手術で治る認知症
慢性硬膜下血腫とは?

治癒が期待できる認知症の1つに、「慢性硬膜下血腫」を原因とする認知症があります。これは頭を打ったことを原因として発症する病気で、頭を打ってから1~3カ月後に症状が現れ、患者さんの大部分は50歳以上の壮年から高齢者です。

頭蓋骨の直下に硬膜という脳表を覆っている硬い膜があります。その硬膜と脳表をつなぐ静脈(架橋静脈)の損傷による出血に、髄液の混じった貯留液(血腫)が血腫被膜を形成しながら増大するとされますが、詳細な機序は解明しきれてはいません。血液は通常、血管の外に出ると固まっていきますが、慢性硬膜下血腫では固まらないのが特徴です。

また高齢者やアルコール多飲者に多いという特徴もあり、脳が萎縮することにより脳と頭蓋骨との隙間が大きくなることが関係していると考えられています。