「これは、一体、何なの?」、「どうしたらいいの?」、「その新人に、何て言ったらいいの?」。以下、( )は彼らの心の声です。

○病院の新人研修で、説明を聞いたらメモをとるようにと話がありました。その後病棟研修が始まり、医療機械の説明やいろいろな説明をして回ります。近くにいた新人看護師に「前の機械とこの機械の違いはわかりますか」と研修担当看護師が聞くと「メモをとるように言われてメモをとっていたので、見ていませんでした」と答えました。

(えっ、いや、その、いま、説明している意味……)

○早出のある職場で、月に2度ほど8時までに来てくださいと伝えました。するとその女性職員は「私の家はバスと地下鉄を乗り継いで1時間ほどかかるんです。バスは朝早くだと30分に1本くらいしかないので、○分のバスに乗ると8時15分に着くんですよね。それでもいいですか、もしだめなら、私、引っ越さなければならないんですけど」

(えーっ、早出あるって言ったよねー、聞いてなかったのかなー、その前のバスに乗ることは考えられないのかなー)

「ボクの昼休み時間は12時から1時までですよね」

○福祉施設の施設長。新卒の事務員に「始業は9時から、お昼休みは12時から1時です」と伝えました。12時になると、目の前で鳴っている電話も取らず、席を立ちどこかへ行ってしまう。2、3日は様子を見ていましたがやはり、12時でも電話を取ってくれるように言うと、「ボクの昼休み時間は12時から1時までですよね」。

(いや、そうだけど……)
 

12時に席を立ち、どこに行っているのかわからない。数日して、自分の車の中でお昼を食べているようだということがわかった。

(緊急のこともあるので、休み時間でも所在がわからないと困るのだけど、彼にはどう説明したらいいだろう。確かに昼休みは休みで労働時間ではない……説明が大変そうだな……)

○パソコン入力を一応説明したが、わからないところがあったようで、先輩の後ろに立ってPCを見ている。何も言わず、立って見られているのも気持ちがよくないので「そこに立たないでください」と言うと「私は大丈夫です」と、立ち続ける。

(いや、そうじゃなくて……)

これに類する話はたくさんありました。これらはどちらかというと、ASDの傾向がある人たちです。彼らはふざけているわけでも悪気があるわけでもありません。状況倫理ということを除けば、彼らは正しいのです。

言われたことを守っているし、自分の論理で話しているのです。間違っているわけではないので、先輩や上司はそう言われると「えっ!」と驚き動揺し、とっさに何も言えなくなります(ちなみに、最後のパソコン入力の彼女は、自分の理解の仕方や考えを変えず、間違った入力をそのままにしているという事態が続き、先輩はそれとなく注意をしても自分の正しさを主張され、上司に改善を求めても理解されず、先輩のほうが辞めてしまいました)。

ADHDの傾向がある人の場合は少し違います。始めはそれほど目立たないことが多いのですが、だんだんと「あれ?」ということが出てきます。

遅刻をするようになる。

約束した時間に遅れるようになる。

仕事の期限があやふやになる。

書類や貸してあげたペンなどの所在が不確かになる。

仕事の段取りが悪い。

同じことを何回も言わないといけない。

そのほか、細かなことが状況依存的に起こり、始めは新人だしと大目に見ていることも多く、どちらかというと驚き方も動揺するほどのことでもないので、すぐに口に出して注意をすることは少ないです。しかしこれが積もっていき「何回言っても、直
らない」ということにつながっていきます。

このようにタイプの違いや、出会った時の驚き具合の差はありますが、共通していることは周りの人はその場で何も言わない、言えないということです。

その理由としては、先ほどの正しさもありますが、日本的なのかどうかわかりませんが、人に対して驚くなんて失礼だと思ってしまうからかもしれません。驚きを内に秘め、不消化なまま残っていきます。