そんなある日、所長はいつになくあらたまった口調で、こう切り出されました。

「吉川さん、ぼくはちょっと体調を崩しているし、他の研究もしなければならない。玄米の研究を引き継いでください。必要としている人がいっぱいいるので、ぜひ販売してください」

突然のことだったので、私はなんと答えたらいいかわかりませんでした。私としては、「すぴなっつおら」の製品に健康を練りこむ、いわゆる商品の副原料として考えていましたので、「玄米スープ」として原液を売り出すつもりはまったくなかったのです。

所長は、玄米スープはほぼ完成したと思っているようでした。

たしかに、北海道の検査機関に玄米スープの検査を依頼したところ、残留農薬はゼロでしたし、フィチン酸やマンガン、モリブデン、ビタミンEなど、栄養成分の数値はすべて申し分ありませんでした。

ですから、七〇パーセントぐらいは完成していたといっていいでしょう。でも、ものごとは何でもそうですが、最後をつめるのが難しいのです。玄米スープも濃度が不安定でしたし、腐って袋がふくらんで破れることがしばしばありました。