第2章 医師法第21条と関連した注目事項

(1)死亡診断書記入マニュアルと医師法第20条

医療崩壊の元凶は、「法医学会異状死ガイドライン」であると糾弾されたのは、つい最近のことである。

医療界の根底を揺るがした許すべからざる存在という印象が医療現場に満ち溢れた時期があったが、よく考えてみると、一学会のガイドラインに過ぎないものがこれだけの猛威を振るうとは考えも及ばないことである。

「法医学会異状死ガイドライン」が発表されたのは、平成6年のことである。このガイドラインが問題とされるのは、ガイドラインの存在そのものではなく、これが行政と結びついてしまったからである。

「平成7年度版死亡診断書・出生証明書・死産証書記入マニュアル」をひも解いてみると次のような記載がある。P25、[死亡診断書と死体検案書]

質問6:医師法第21条に「死体を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄の警察署に届け出なければならない」と規定されているが、この「異状」の基準は何か。

回答:「異状」の定義については医師法上定められていないが、病理学的意味での異状ではなく、法医学的な異状を指すものと考えられる。すべての死亡例に適合する異状の基準を一律に規定することはできないが、日本法医学会が定めている「異状死ガイドライン」等を参考にされたい。

この法医学会異状死ガイドライン参照の文言が、以後、毎年度の死亡診断書記入マニュアルに踏襲され、あらぬ方向に一人歩きし始めるのである。この問題が解決されたのは、平成27年度版死亡診断書記入マニュアル改訂による。