ブルーストッキング・ガールズ

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照月庵は徳川慶喜の屋敷跡にあった。幕府崩壊後に、隠遁生活をしていたという将軍が暮らしていたところであるが、この静岡の街の華やいだ中心街にあっても、ここだけは静かな場所だった。

控え室の洋間は広く、大きな机が真ん中にどっしりと置かれ、その上に白いテーブルクロスが敷かれている。床には、インド辺りで織られた大きな絨毯が、厳かに模様を波打たせていた。

ガレの、ガラスの電気傘がこの部屋を明るく照らし、この場所をどこか外国の遠い城の中のようにしていた。木島はお気に入りの大きな万年筆で、講演の準備のための原稿を書いていた。部屋の隅に、ピンクの洋装をした紅林紀子がいて、茶を淹れていた。

「どうぞ」
「おっ、ありがとう。うん、おいしいなあ。さすが茶どころだ」
「去年のものですけれど。あなたは何にでも感動するのね」
「うん。あなたといると、気持ちも落ち着いて、つい多弁になってしまう」
「やめてください、そんな冗談おっしゃるのは」
「冗談ではない。本心だよ」

木島を紀子に紹介したのは女学校の同僚の寺田だった。木島とは大学時代からの親友だという。

木島は彼と対するとき、だらしなさや、幼さを見せる。そして弱々しさを垣間見せた。

駅で寺田と紀子が木島を迎えたとき、木島は気取って汽車の二等から降りようとして、ステップを踏み外し、見事に転げた。

この土地には似合わない、しゃれた紳士の不様な姿は、ぐるりで見ていた人々の爆笑を買った。木島は、すっくと立ち上がって帽子を目深に被ると、一目散に逃げ出した。