ブルーストッキング・ガールズ

1

「よかった、元気になったようね」。喜久が微笑んだ。
「うん」
「我らも、姫を見舞った甲斐がありましたな」と晴。
「左様でございますな」

多佳は両手をついて「ハハー」とひれ伏した。
「ありがとう。今日は調子が良かったから……私にももう一つちょうだい」
「ハハー、お姫様」晴がひれ伏した。

四人は声を出してまた笑った。多佳が、喜久が本を持っているのに気付いた。

「相変わらず、本読んでるんだ」
「ありがとう、これ面白かった」

喜久は小さな白い本を取り出した。

「あっ、それって『み、だ、れ、髪』」

晴が本を取り上げた。

「いや……それって、いやらしいんでしょ。髪が乱れるのよ」

多佳が晴の手元を覗き込んだ。

「そんなことないわ、いやらしいだなんて」

喜久がむっとする。

「だって……“やわはだの熱き血潮に触れもみでさびしからずや……”きゃー」
「しょうがない人たちね」
「だって……“やわはだに触れる”のよ」

晴は興奮している。

「だめ、だめ、こんな本読んじゃ」

多佳が首を激しく振った。

「美津さん、駅前で、こんな広告配っていたわよ」
「なに? あっ、木島潔講演会! 本当! 木島先生が来るんだ」
「ねっ、すごいでしょ」
「何者なの? その人って……喜久ちゃん」

晴が二人の間に首を突っ込んだ。

「作家よ、小説を書く人。『煩悶(おうのう)』っていう小説、新聞でも大評判よ。面白い小説よ。ある作家が親の言われるままに結婚をして、子どもができて、平凡だけど平和な日常を送っていたの」
「それのどこが面白いの?」
「でもそれが、作家には耐え切れなかったのね。そのうちに、ろくに稼ぎもしないで本を読んだり書き物をしている夫に妻は不満をためていき、毎日、夫をののしるようになるの。そしてある日“そよ風のような静謐さをたたえた”女学校の教師・静子と出会うの。二人は何度か逢瀬を重ねるんだけど、それがやがて発覚して静子も女学校を追われ、作家も親戚中から吊し上げを食って、二人は駆け落ちをして山奥の温泉に逃げて……」
「心中したんだ」

晴が身を乗り出した。