薬にまつわるシークレットな話

中村:獣に襲われて殺されてしまった?

溝口:普通はそう考えるでしょうね。実はそうではないのです。この実験は1991年まで続けられ、合計91頭のゴールデンタマリンが放たれ、1年以内に死亡した数は41頭、3年間で生き残ったのはたったの27頭だったそうです。猛獣に襲われて殺されたのはそのうちの6頭。その他はとても野生動物とは思えない死因で亡くなっています。

この話でピックアップされた死因は、木から落ちて頭の骨を骨折して死亡。毒蛇を食べようとして噛まれて死亡。毒のある果物を間違って食べて死亡。蜂の巣に近寄って刺されて死亡。何を食べていいのかわからずに飢餓して死亡するなどです。

また、1992年にはカリフォルニアコンドルの実験が同じように行われ、電線にぶつかって死亡したとか、ゴールデンタマリンと同じように、間違っても野生動物が起こさないミス・行動を取って死んでいます。人間に育てられ、競争原理もなく飼育された動物の野生化は困難であるということが立証されています。

食物連鎖の中で高次消費者であるほど野生化が困難で、単独で生活する種であろうと集団で生活する種であろうと、本来野生動物が持っている食糧の獲得、子育ての仕方、敵からの防御、厳しい環境で生きていく術、喧嘩の仕方、自分や子孫を守る術、厳しい自然環境への順応、捕食者・競合者への対応など、本来は両親や同種の仲間から学び取るものです。

野生動物にとってはそれが普通であり、特別なものではありません。人間に育てられたり、飼育されたり、ある意味甘やかされて育った動物というのは自立することが困難であり、順応性や対応力がなくなってくるのだと思います。

結果、木から落ちて頭蓋骨を骨折して死亡するとか、電線にぶつかって死亡するとか、何を食べればいいかわからずに死亡するとか、野生動物ではあり得ないような死に方をしてしまうのです。

たとえ生き延びたとしてもストレスや病気、ケガなどで短命に終わることが多い。やはり、野生の動物と人間の手で甘やかされて育った動物とでは順応力や対応力などの総合適応力(適応値)が違ってくるんです。

前者と後者では後者の方が圧倒的に総合適応力(適応値)が低い。そこには判断力や発想力なども含まれています。この話を人間に例えて考えてみてください。

ストレスに耐える、打ち克つ、対応できるというのはハート(心)ではなく、経験や体験などで学び得た脳の体力がものをいうのです。ここでいう脳の体力とは自分で考える引き出しの数の多さを言います。

この引き出しが多ければ多いほど対応する術をたくさん持っているということです。ハート(心)は胸ではなく頭(脳)にあるんです。自閉症やうつ病、精神的に行き詰まってしまう人は何かのきっかけやショックでその引き出しの鍵が施錠されてしまいます。