そこは、普段ならゲストを座らせることのない席。どうやらベイサイドクラブのスタッフたちが、珍しくパートナーを連れている翔一に、気を使って用意したらしい。

『今夜なら、きっと座ってくれるだろうなぁ? わかんないけど……』

そう思いながらスタッフは、2人の席をセットしていた。ひと月に一度くらい、ベイサイドクラブにやってくる彼を知っているスタッフ達なら、

「あの人に、席を作ったげても、あんまり意味ないよ。座っているところなんか見たことないもん。だって、お店に入ったら帰るまで、ずっとダンスフロアーで踊ってるんだから」

たぶん、皆がそう言う。

このお店に来るゲストは、日本人と外国人半々、よりもちょっと外国人のほうが多いかなって感じ。でもダンスフロアーには圧倒的に、外国人のほうが多い。

そんな外国人だらけのダンスフロアーから1人、そこから抜け出してきても違和感が、ぜんぜん感じられない雰囲気を持った男。身長は190センチを超えているだろう、針金のような体つきで、長い髪の毛は、火炎放射器をくらったようにチリッチリ。

エキゾチックなその顔立ちは、目一杯、日本人離れしている。彼は、クォーター。細胞の4分の1が、日本人。

そんなスタイルの奴が、翔一達の座る席に向かって歩いてくる。

「よう、久しぶりだね。元気?」

このお店の中にいても、充分に目立つ容姿を持つその男は、翔一に声をかけた。

「ミックさんこそ、元気ですか? 最近、持病の調子はどうなんですか?」

翔一は、からかうように言った。このミックはベイサイドクラブのハウスDJのチーフ。彼は、自分の都合が悪くなると、持病の喘息が発作を起こしてしまうという特異?な体質?を、持っている。

「そんなこと言ってまた、イジメるの? これから、最後のパート俺がやるから勘弁してよー。ラストまで、踊ってってよね。素敵なパートナーとご一緒に」

そう言ってミックは、香子に微笑んだ。

※本記事は、2017年9月刊行の書籍『DJ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。