バドミントンをしに地元に帰ると言うと、ハギが珍しくついて行くと言い出した。久しぶりに実家に顔を出したいとのことだった。彼がそんなことを言うなんて滅多になかった。普段は出不精で休みの日は部屋に篭ってゲームをしているのが彼の至福である。実家や姑に用事がある時にさえ、サークルのために地元に帰る私を遣いに出すほどだ。

私は不思議そうにハギを見た。視線に気がついた彼は久しぶりに祖父母に会いたいのだと付け加えた。その言葉は私をなお混乱させた。実はこの日の二日後には、彼の祖父母らを結婚後初めて自宅に招く約束をしていたのだ。

今日わざわざ会いに行かなくたって、明後日会えるのに、そんな言葉が喉元まで出かかったが飲み込んだ。

彼を乗せて地元へ帰り、実家の前で降ろすと私はいつもの体育館へと向かった。

久しぶりに身体を動かし有意義な時間を過ごす間も、私はどこかざわざわとした胸騒ぎがしていた。活動が終わるとハギに連絡してまた実家まで迎えに行った。どうだったか、と聞く私に彼はやけに明るい返事を返した。

「おばあちゃん、久しぶりに会えたから喜んでくれてたくさん手土産持たせてくれたよ」

ふうん、と聞き流したふりをしたが私の頭にはどうしてもひとつの疑惑が浮かび上がっていた。

姑に会ったのではなかろうか。確かにその時の私はすでに姑という存在そのものに過度な嫌悪感を抱くようになってしまっており、彼の母親といえどハギが姑に会うことはあまり良い気持ちがしなかった。けれども会うことを隠す必要があるだろうか。実の親だ。この先一生会わないわけにはいかないのだから、会うのを止めることはしない。気持ち良く送り出すことはできなくても不平不満を漏らすようなことはするつもりはない。たとえ姑に会っていても別に良かった。ただ真実を確かめたい。そんな純粋な好奇心だった。

何年も一緒にいるのに、浮気の気配を微塵も感じさせたことのない彼の携帯を見るのは初めてのことだった。後ろめたいことなんて何もないとばかりに、彼の携帯はいつも無防備に置かれていた。

彼は本当に嘘が下手だ。直接姑に会ったのか問いただせば堪らず観念したに違いない。それなのに直接聞かずに卑怯な手を使った私に罰が下った。姑からハギへのメールは、私への罵詈雑言の数々で溢れていた。

「あいつは親無しだからダメだ」

特にその言葉が私の胸をえぐった。祖母の姑への懇願は、なんだったのか。心ない言葉達を見て私の中で何かが壊れた。

なぜ私だけがこんな想いをしなければならないのか。母親のいない私に、神は義母さえも与えては下さらないのか。そういえば父の再婚相手の中国人も、私の母親になってはくれなかった。この世の全ての邪悪を一身に受けたような気がして、怒りや悲しみを通り越して笑いが込み上げる。

今日ハギは姑から旅行のお土産を受け取ったらしい。そんなことはもはやどうでも良くなっていた。結婚生活はすでにときめき云々という問題ではなくなった。

私の結婚生活は、旦那への不信感と不甲斐なさで一杯になっていった。ショウ君と出会ったのはまさにそんな時だった。