全身に激しい痛みが走り、その痛みで意識が戻った。

意識が戻ると同時に、腹に激しい痛みが走った。激痛にうなり声をあげ、うっすらと目を開けると、自分の嘔吐物の中に顔をうずめていることがわかった。

口の中に血と嘔吐物の味がする。

頭のすぐ横で、車のタイヤが通り過ぎる音が聞こえ、自分が道に横たわっていることがわかった。激しい痛みに襲われながら、もう一度薄目を開けると、数人の中国人がボサードを取り囲んで見おろしている。つばを吐きかける者やボサードの手を踏みつけている者がいる。

起き上がろうとすると、誰かが膝を蹴った。全身に痛みが走り、ボサードは立ち上がれず、地面に顔をうずめた。次の瞬間、腹を激しく蹴られ、口から血を吹き出した。

周りの男たちは、一斉に容赦なくボサードを蹴り始めた。蹴られるたびに全身に激痛が走る。踏みつけられた手足を動かすことができず、自分をかばうことができない。

抵抗できないまま蹴られ続け、どうすることもできない。意識が遠くなり、気を失いかけると腹を蹴られ、激しい痛みで血を吐き、気を失うこともできない。この繰り返しである。

それでも、次第に周りの罵声が遠くに聞こえるようになってきた。

だんだん意識が遠くなる時間が長くなり、ボサードはこのまま蹴り殺されることを覚悟した。

その時、暴徒を制圧する中国語が聞こえた。

「やめろ! どけ、どくんだ。やめろ」

ボサードは、自分を取り囲んでいた男たちが、散らばって行く気配を感じた。

しかし、暴徒の中の一人が、執拗にボサードを蹴り続けている。ボサードは血を吐きながら地面を転がったが、男は転がるボサードを追いかけ、腹を蹴り続けた。

「やめろ」

大きな声の男が近寄り、ボサードを蹴り続ける男の肩を掴んで怒鳴りつけた。

ボサードを蹴っていた男は、自分の肩を掴んだ男を睨みつけたまま、横につばを吐き、ゆっくりとその場を立ち去って行った。

ボサードは薄目を開けたまま、遠のく意識の中でその様子を見ていた。

暴徒を制した男が自分のそばに膝をついたのがわかった。男は紺色の中国服を着ている。

「ユウ、セイブ、ナウ(もう、大丈夫ですよ)」

英語が聞こえた。男の顔は見えなかったが、ボサードは英語が聞こえたので「助かった」と思った。そして、その瞬間にもう一度、気を失った。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『コール・サック ―石炭の袋―』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。