第1章 日本人の精神を検証する

誰もが教育に困っている

10年前あたりからでしょうか。経営者に会うとみな口をそろえて、社員教育が大変だとこぼします。

注意をすると会社に出てこなくなり、叱れば会社を辞めてしまう。隣の席にいながらネットで「話し合っている」。理系の大学を卒業していながらルート計算式も知らずにメーカー に入社してくる。営業マンでありながら顧客のところに行って何を話せばよいかわからないと言って帰ってくるといいます。また指示されたこと以外できない、ましてや創造的な話し合いは絶望的である、と。

経営者の話を聞いていますと世も末なのではないかと心配になります。その一方で、経営者側に部下に問題があるという前提が存在していることも危惧されます。

部下が思うように動かなければ、きびしく指導するしかない。ついてこられない社員は不要であるとの考えに誘惑される経営者は多いものです。実際そのように行動する経営者も多いのではないでしょうか。

しかし、一番の問題は社会の変化ではないかと私は考えます。

あまりに長く続いたデフレ経済の中、価格競争に明け暮れて経営者も社員も人間らしさを失ってしまったのではないでしょうか。価格競争の先には、価格戦略しかなく、何の展望もない不毛な競争を長年繰り広げた結果、生きることに希望が持てなくなってしまった若者が増えてしまいました。

上司も価格競争に疲れ、将来に希望が持てるような模範を部下に示すことができずに、人材を育てられなくなってしまいました。

自信がないにもかかわらず、通用しない過去の経験を持ち出して、「なんでもいいから動け。動けば結果は自ずからついてくる」と自分に言い聞かせるよう部下に「お説教」をしてきたといえます。しかし、上司も部下もどうにもならないことを知っていました。

マニュアルどおりに部下を叱咤していたら、ある日突然「ブラック企業」という烙印(らくいん)を押され戸惑ったという企業も多いでしょう。