Ⅲ.心臓発作と脳溢血から生命を守るために

2 原因物質特定への道

生体内産生物質で、死をも招くほど激烈な作用を有する物質は何か

アドレナリンは、副腎髄質より分泌されるホルモンおよび神経伝達物質としてよく知られているものです。血管平滑筋を収縮させて血圧を上昇させ、また、心収縮力の増大、心拍数の増加などをもたらす、超微量でも極めて強い生理活性を持つ物質です。そして、酸性腐敗便の関連物質としてのアドレナリンは、腸内でタンパク質が酸性条件下に腐敗して生じたタンパク性アミン類の中の一種であるドーパミンが腸壁から血液中に吸収され、これに副腎酵素が作用して生じる物質であり、慢性病(ことに両発作)の根本原因物質として中心的な存在と判断されます。

すなわち、タンパク性アミン類は、酸性腐敗便中から、このものに含まれる水分の吸収に伴って血液中に吸収されるため、大半は肝臓での解毒を受ける肝門脈(胃、腸、膵臓、脾臓からの血液を集めて肝臓に送る静脈血管のこと。肝臓で再び毛細血管に分かれ、それから合して肝静脈となり、大静脈に入った後心臓に戻る)を経由せずに体内に侵入すると判断されます。

すなわち、酸性腐敗便中に産生されたタンパク性アミン類は、主には直腸壁から吸収された後、皮下の静脈を通って直接心臓へと達するため、その被害が甚だしいものになると父は結論付けています。

なお、肝門脈を通るルートをたどるタンパク性アミン類は、肝臓を強く傷害するので、このようなことが度々起これば、後々の肝臓疾患の基盤を作る要因になると判断されます。

なお、タンパク性アミン類は、「交感神経類似作用」と呼ばれる激烈な血管収縮・痙攣作用および組織傷害作用を持っているので、「交感神経類似アミン類」とも呼ばれています。最強の交感神経類似作用を持つ代表的なタンパク性アミンとして、チラミン、ドーパミン(オキシチラミン)などが知られています。

アドレナリンは交感神経類似作用を持つ物質ですが、その化学構造が「アミン」と呼ばれる類の物ではないので、「交感神経類似物質」と呼ばれています。なお、両発作発症時に血液中に出現するアドレナリンの量は、副腎髄質から分泌されるホルモンおよび神経伝達物質として常在するアドレナリンに比べて桁違いです。

なお、脳内に、ごく超微量のタンパク性アミンが存在していることはとうに判明しており、これは神経伝達に関与していると推測されています。但し、重篤な両発作発症時に酸性腐敗便中から血液中へと吸収されるタンパク性アミン類の量は、脳内に常在するタンパク性アミンに比べて桁違いに多いことはもちろん言うまでもありません。

また、交感神経類似物質もタンパク性アミン類とほとんど同類の作用を持つ物質です。

この、腸内における不消化残渣の酸性腐敗の際に生じる交感神経類似アミン類および、交感神経類似物質産生時の化学反応の代表的な例を図1に示しました。

なお父は、チラミンをはじめとするタンパク性アミン類の投与によって、急性尿毒症と全く符合する症状が実験動物にも生じることを確認しています。

[図表]代表的な交感神経類似アミン類および交感神経類似物質の生合成系路
図は、酸性条件下(pH値2.5〜5.5)で、次のような反応が起きることを示す。
・左上端の必須アミノ酸の一つであるフェニールアラニンからチロシン(アミノ酸)が生じ、これに腐敗菌の脱炭酸酵素が作用してチラ ミンが生じる。
・同時にドーパミンが生じて、これに副腎酵素が作用してアドレナリンが生じる。