4 梅の古木

二月に咲く梅の花は春の訪れを告げるようだ。五弁や重弁の梅花は芳香を漂わせ、その個性ある芳しさは心を慰める。

この季節、きらきらした柔らかな日差しを感ずるかと思うと、急に厳しい寒さが到来する。早朝、宅の庭には霜が降り、折りしも粉雪が舞うように降りてくる。冬に耐え、白梅・紅梅の蕾がようやく開こうとするその時に、なんと痛ましいことか。

梅の原産は中国といわれる。色は白と淡紅色。中国の人びとに好まれるのは、赤い色だという気がする。中国では赤や黄色を重用し、文字は赤い紙に黒墨で書くことを良しとする。

そして皇帝の色は黄色。これは黄金に相通ずるからだろう。以前は、中国では白紙に黒文字を書いたり、黒い服装で出かけたりすることを忌み嫌ったものだ。

ところが、最近はどうだろう。服飾の色彩を見ても、あまり意識していないように思える。それは情報通信技術が急速に発達し、昔のこだわりが次第に失せていくからだろう。

新しい情報が瞬時に地球上を行きかう時代となった。驚くべきは、国家をも変えてしまう力を有するようになったことだ。さらにその精度を上げ、人類に貢献することになるだろう。便利になることは良いことだ。

しかし、失うものもあるのではなかろうか。精密機器の映像からは春の「梅の香り」や「人間の身辺に漂う品格」は伝わってこない。また、梅の枝の芸術的な美しい古木の姿を映し出しているとは到底言い難い。

古より、梅に限らず、桜や松の古い木々には犯しがたい生命が宿っているといわれていた。菅原道真を祀った太宰府天満宮の「梅」、木華之開耶姫(このはなのさくやひめ)の「神木の桜」。そして「影向の松」。奈良の昔から、日本人は木々に対して崇敬の念を抱いていたのだ。

以前、欧米では、日本庭園がたいへん好まれていた。今は、「盆栽」に深い関心があるようだ。盆栽は枝を矯め、鉢の中で凝縮し、最も美しい型を作り出す。その姿は自然の気高さと、周りの空気をも取り込み、人びとを大きな「宇宙観」の中へ引き込んでいく。

日本の伝統の粋は精神性にあるといっていい。今こそ、価値ある日本の伝統の息吹を世界に発信する時だと思う。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『世を観よ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。