三 美味しい食の話

14 和の香り

弥生の空は歌の文句のように霞か雲がたなびき、気分は何となく虚ろでけだるい。三月三日は桃の節句。

お雛様を飾り、桃の花を生けると、幸せが近づいてくるような気がする。二〇一一年三月十一日の災害が脳裏に焼きついているだけに、ほっとする一瞬である。

昔から桃は、長寿とは切っても切れないものだ。西王母の桃。桃林。桃園。幸の代名詞といってよい名称だ。

この季節、美しい桃の形をした可愛らしい和菓子をよく見かける。上のほうはほんのり淡い桃色。中には餡が入っていることが多い。

和菓子は和風の菓子。舶来の洋菓子に対する言葉だ。和菓子の特徴は、色彩の妙なる調和と繊細なる甘味。その匠の技は芸術作品といっていい。その種別の多さにも驚く。

棹物の羊羹(ようかん)。外はパリッとしていて、中に餡の入っている最中(もなか)。お餅の中に甘味が詰まっている餅菓子。蒸した皮に包まれた饅頭(まんじゅう)。そして求肥(ぎゅうひ)。求肥は、白玉粉をこねて蒸し器にかけ、それに砂糖や水あめを練り入れ、強い熱を加え、実に多くの手間暇をかけて、あの弾力があって柔らかな食感が生まれる。

私の住まいの周りはみなコンクリート作りの家だが、宅だけは和風の木造建築で、小さな坪庭がある。欧米の方が来られると「日本の古きよき文化に触れられてうれしい」などとお世辞を言われることが多い。

当然、畳の生活なので座布団を差し上げることになる。中には尤もらしく正座をする方もいるが、五分も我慢できない。そして和菓子を差し上げる。

しかし、餡の入った菓子を口に入れたとたん、みな顔をしかめる。ほとんどの方が餡の入った和菓子は食べられない。

唯一の例外は、薩摩・鹿児島県で創作された「かるかん」である。このかるかんだけは欧米の方も喜んで召し上がる。何故なのだろう。これは欧米の方が主食としているパンに近いからだと思われる。

アジア圏の方々はもちもちした食感の餡の和菓子を喜んで召し上がる。これは米が主食の文化圏なので、相通じるのであろう。

文化の違いと互いの理解とは、日常の生活から教えられることが多い。そんなわけで、近頃我が家では、欧米の方には座椅子を勧め、日本茶とパン系の和菓子かるかんを差し上げることにしている。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『世を観よ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。