「あーらー、真一さんごめんなさい。写経に夢中になって気づかなかったわ」と文子が謝った。

「そんな、そんなこと。お義母さん一々謝らなくて結構ですから、勘弁してくださいよ」

「ただいま」と玄関から華音の声がした。

リビングにきた華音はソファーに座り、「みんなそろってどうしたの?」とあっけらかんと言った。

口火を切ったのは真一だった。

「今朝、大学に行って医学部の高瀬くんにお義母さんの件について相談しました。結論からお話ししますと、高岡セントラル病院に明日検査入院できるというので、予約しました。彼の弟の高瀬純二郎さんが、その病院の副院長で消化器内科部長です。

彼は、学会の消化器内視鏡専門医で指導医でもあるそうだ。検査機器も最新だし、医療体制も整っており、一刻も早いほうが良いと思って頼んできました。お義母さん、瑠璃から聞いたと思いますがよろしいですね」真一は、余計な説明は省いた。

文子は真一の説明に一々頷きながら、「真一さん、お気遣いいただきありがとうございます。感謝しております。私としては、お任せするしかありません」と心底から感謝の気持ちを述べた。

瑠璃は立ち上がって、「さあ、晩ご飯の支度しましょう。活きのいい白エビを買ってきたので、かき揚げ、ゲンゲとキス、それからマイタケ、すす竹を天麩羅にするから華音手伝って」と張り切って言った。

瑠璃と華音が料理をしている間、文子と真一はソファーに座りながら談笑した。

「お義母さんのご両親は、明治生まれですよね」