落とし穴

すると、地面には細かなデコボコが多数存在していることに気がついた。さらにじっと見つめるうちに、そのデコボコは文字に見え、人の名前のように読めた。タカシの表情の変化を見て、頷いた父親はさらに続ける。

「穴を掘るべき場所には、こうやって人の名前が浮き上がってくるんだ。これは、この人の人生の落とし穴だ。もちろん本当にこの穴に落ちるわけではない。しかし、穴を掘ることでその人の人生に何かしらのトラブルが起こることになる」

タカシは大きなショックを受けた。今まで何気なく掘ってきた穴が誰かの人生の落とし穴だったと知り、呆然と立ち尽くした。諭すように語りかけた父親の言葉もタカシには何一つ届くことはなかった。

その日から数日の間、タカシは部屋に引きこもり一人孤独に考えを巡らせ続けた。そして、他人の足を引っ張るような仕事はしたくないと家出同然で町から出ていった。

それから七年の年月が流れた。頼る者もなく苦労多き日々は、タカシにとってまさに落とし穴の連続であった。

最初は目の前のことに必死でわからなかったが、苦労は間違いなく糧となり人を成長させると気づき始めたのは、ここ一、二年のことだ。自らの歩みを通して、穴掘り屋は他人の足を引っ張る仕事ではないのだろうと考え方は変化していた。

しかし、タカシには何も言わずに家を出てきてしまったという負い目があり、今さらどんな顔をして帰ったらよいかもわからず、モヤモヤと過ごす日々が続いていた。そんな中、仕事の同僚の言葉が胸に刺さる。彼はタカシと同い年の同期で、何でも話せる友人でもある。

「親が元気なうちに、きちんと和解した方がいい」

昨年、突然父親を亡くした彼だからこそ言える説得力がそこにはあった。同僚の切なげな表情と力強い声色に背中を押され、タカシは次の休みには帰省をしようと決意する。

そして迎えた週末。電車に揺られ、懐かしい景色が流れ始めるのと同時に、タカシの心はどんどん不安に支配されていく。両親に対してどんな表情でどんな言葉を選べばいいのか……検討もつかないのだ。

家の前まで着くも答えは見つからず、行ったり来たりを繰り返していると、後ろの方から懐かしい声が聞こえた。