異常事象

それから、さらに三年の月日が流れた。色の消えるスピードは衰えるどころか、どんどん加速し、今では二ヶ月に一度のペースで失われるまでになっている。日々消えていく人工的な色はもはや街のどこにも存在しなくなり、自然の色を楽しむスタイルが完全に定着した。

未だに何が原因でこんなことになっているのか解明されぬままであり、当初から一部の人の間で囁かれていた、目に見えない力が動いているという説が濃厚になってくる。人間中心で発展してきた自分たちを悔い改める考え方が浸透しつつあった。

だが、ここから状況は一変した。再び色が復活し始めたのだ。しかも、そのスピードは凄まじかった。みるみるうちに色が現れ始め、何年も半透明だった街の車が、並ぶ家々が、家具や家電が元の姿へと戻っていった。

人々は歓喜に満ちた。そして世の中は活気に満ち溢れていった。数年の間、強制的に我慢せざるを得なかった色への執着が一気に爆発したとでもいうのだろうか。自然の色で溢れていた街は、途端に派手な装いへと変貌を遂げていくことになる。特に蛍光色が大流行し、街は目がチカチカするような、ド派手な蛍光色の物で溢れ返った。

以前は当たり前であった色が当たり前ではなくなり、それが復活した今、人々にとって何気ない色のある日々が幸せの瞬間となったのだ。男も久々にお気に入りだった青い洋服に袖を通した時には、何とも感慨深くそれだけで心が躍った。

その様子に警鐘を鳴らす者も少なからずいたが、大多数の声に簡単にかき消されていった。多くの人が幸せに酔いしれ、取り戻した新たな日常がこの先も続くことを疑わなかった。しかし、そうではなかったのだ。

ある日、突然全てが半透明になった。それは何の予兆もなく、誰も予想できなかった。人々はただ愕然と立ち尽くした。目の前に広がっていたのは、枯れた草花たちが寂しそうに風に吹かれている景色だけであった。