死者の使い

その頃喫茶店で、紳士と女がコーヒーを飲みながら話をしていた。

「衣装代、ゾンビ映画の一コマの写真代、カラーコンタクト代、当日の出張代を含めまして、六万六千五百円でございます」

明細書を指さしながら紳士は流れるように説明をする。女は言われた金額を渡し、こう言った。

「何でも屋さんって、本当に何でもしてくれるのね。助かったわ。あんな人でも、私にとっては一人きりの父親。これで改心してくれるのなら、お安いものよ」

ある日突然

「ねぇ、あなた聞いてるの?」

「……あぁ……聞いてるよ……」

ユウタはテレビを見ながら気のない返事をした。毎日のように繰り広げられるやりとりに、サトコはうんざりし大きなため息をつく。しかし、サトコのわかりやすいため息もユウタには届いていないらしい。視線は変わらずテレビだけに向かっていた。

結婚して十五年。夫婦なんてこんなものなのかもしれない。一人娘も今年の春から中学生になり、家を空けることが多くなった。子どもに介入することが減るのと比例するかのように、夫婦の会話もめっきり減った。

時々話しかけても、ユウタはテレビやスマホを見ながら、せいぜい生返事をするだけだ。本人は聞いていると主張するが、サトコからしたら話を聞いているとは到底思えない。この件で意見を交わしたところで結局議論は平行線のままであり、話す気も失せるというものだ。

そんなユウタが、ある日突然変わった。それはとある木曜日のことだった。仕事へ行っていたユウタが珍しく昼過ぎに帰宅した。外回りで自宅近くまで来たため、休憩を兼ねて一度戻ってきたのだ。

「帰ってくるなら事前に言ってよね」

ちょうど昼食を終えたばかりのサトコはつっけんどんに言い放った。

「あぁ、ごめんごめん!」

悪びれもせず謝るユウタを少し睨んだものの、これ以上何かを言っても無駄なことはわかっている。気を取り直してこう切り返した。

「たまたまパートが休みだったからよかったのよ。それで、お昼ご飯はどうするの? もう食べてきたの?」