シニア世代のための「万葉集百人一首」

万代予祝の歌・万葉集の最後の歌

一 あ 4516

新しき  年の初めの  初春の 

今日(けふ)降る雪の  いや頻(し)け吉事(よごと)

大伴宿禰家持(おほとものすくねやかもち)

 新年の初春の今日降る雪の如ますますつもれ豊作になれ良いことが沢山起これ


【注】1 .正月の大雪は豊作の瑞兆とされた。上4句はそのことに基づく表現

【注】2.新しき=形容詞「新し」は新しいの意。平安時代から音律が変化し、現代語の「あたらしい」となる。なお、古語の「あたらし」は「惜し」で、もったいない、残念だの意

【注】3. いや頻け=「いや」は動詞「しく」を修飾する程度副詞。ますます、いよいよの意。「頻け」は4段活用の動詞「頻く」。度重なる、絶えず続くの意

【注】4. 吉事=めでたい事柄、「凶事」の対

人の好い志賀の漁師の歌

二 あ 3861

荒雄(あらを)らを 来(こ)むか来(こ)じかと 飯(いひ)盛りて 

門(かど)に出で立ち 待てど来(き)まさず

筑 前(つくしのみちのくち)の国(くに)の志賀(し か)の白水郎(あま)の妻子(さいし)

 愛しい貴方荒雄のお帰りはまだかまだかとご飯を用意して待っていますがいっこうに帰っては来られない


【注】1.大宰府が筑前国宗像郡の人・宗形部津麻呂を指名して、対馬に食料を送る船の船頭役に任じた。その時、彼は「自分は年を取って衰えてきたので航海はとても堪えられそうにない」と言って糟屋郡志賀村の海人荒雄に頼んで任を代わって貰った。しかし、荒雄の船は途中で暴風にあい、船は海中に没した

【注】2.飯盛り=在宅の時と同じく飯を盛って供えること。旅の安全を祈る呪的行為

【注】3.待てど=不吉を感じながら帰りを待つ

三 あ 20

あかねさす 紫野行(ゆ)き 標野行(しめのゆき)

野守(のもり)は見ずや 君が袖振る

額田王

 茜色のさす紫草の野は立ち入り禁止でありますのに貴方様は袖を振ったりして番人が見るではありませんか


【注】1.天智天皇が蒲生野に狩に出かけた時の歌

【注】2.あかねさす=「紫」「日」の枕詞。茜色を発する意

【注】3.紫野=紫草の栽培されている野。紫草は染料・薬用に用いた薬草。根が赤い

【注】4.標野=占有の印(標)をしてある野。立入禁止の野で「紫野」と同所

【注】5.野守=番人、天智天皇を寓したもの。額田王が天智の妻であることを匂わす

【注】6.袖振る=袖を振ることは恋情の表現