第1章 比叡山 焼き討ち 

4.光秀大名に出世

光秀

「はっ、琵琶湖の西岸に突き出た岬を削り、あたかも湖面に浮かぶ城と致しまする。即ち、城の三方は湖に面して築城し、常に軍船を配するための引き込み堀を造りまする。また、本丸の廻りには二重の長大な堀を設け、それぞれ本丸・二の丸として、二の丸の周囲は家臣の居住地区と致しまする」

信長

「何故に水城とするか」

光秀

「はっ、一つには琵琶湖水利権の確保であります。軍船を配することで、京洛や堺などの要所へ向かう交通の確保と、未だ健在な浅井勢ら、北方の敵からの物資輸送の遮断であります。また、二つには多数の商船らの係留地とし、城下に商人が集まる拠点にする所存でございまする」

信長

「うむ、許す。但し築城は自身で行え。正面の道路は真っ直ぐに広くしろ。儂の考えもある。口も出す。そのあたりは勘案せよ」

光秀

「ははっ、ありがたき幸せにござりまする。もう一点お伺いしてよろしいでしょうか」

⇒ありがたい。坂本は琵琶湖に面し、土地も肥沃で京にも近い。しかも、北陸街道の要地にあたる。この地にたぐいまれなる城を造ってみせる。これで儂は織田家中でいの一番の出世頭になることとなるが、居並ぶ諸将の妬みを買わぬよう一層自重し、万事油断なく務めていかなければなるまい。

信長

「うむ、何かあるか?」

光秀

「はっ、掘割を二重とし、正面の本丸に次いで今一つ、二の丸にも少し小ぶりの天守閣を設けてもよろしゅうござりましょうか」

信長

「許す、良きに計らえ。わが織田家の中で、光秀が城持ち第一頭となる。諸将に笑われない城を造れ」

⇒二の丸にも天守閣を造ると! なかなか面白いことを考えるな……。

光秀

「ははっ、ありがたき幸せにござります。心して取りかかります」

勝家

⇒ふむ……確かにこの度の光秀の働きは抜群であった。ここは筆頭家老の一人として潔く認めよう。

「人生至るところに青山あり」じゃ……!

秀吉

⇒くやしい。儂も光秀に勝るとも劣らぬ仕事をしたと思っておる。きんかん頭めが、自分の家柄を前面に出しおって、好かん奴だ。何、幕臣を辞して織田家家臣だと! これは大変だ、光秀が儂より上席の家臣となるのか……うーむ、気に入らない!

長秀

⇒将軍家の幕臣で朝廷との折衝に優れているのが評価されたか……。

<フロイスの光秀人物評:日本国史>

信長の家臣に惟任日向守、別名明智十兵衛と称する人物がいた。彼はもとより高貴の出ではなく、信長の治世の初期には、公方様の奉公人の一人、兵部大輔細川藤孝と称する人に奉仕していたのであるが、その才略、深慮、狡猾さにより、信長の寵愛を受けることとなった。