第2章 光秀と将軍義昭

1.光秀、幕臣を辞退

光秀

⇒儂は土岐明智家の出だが、明智家が斎藤道三に敗れ、儂が浪々の身であった頃、友が我が家に訪れてきた折、もてなす酒もなかった。その時ふと出ていった煕子が酒を持って帰ってきて、恥をかかないで済んだが、あとで頭の手ぬぐいを取った時、煕子の見事な黒髪がなくなっておった。自分の黒髪を売って酒を買ってきたのだ。

このように苦楽を共にしてきた煕子だが、どのような時も笑顔を絶やさず、儂を元気づけてくれた。そして儂の勧めで朝倉家を辞した義昭様を、織田信長様に紹介したのが次の節目であった。

信長様はすぐに動き、義昭様を同道して上洛し、義昭様は朝廷より無事に征夷大将軍に任じて戴き、信長様を『御父上』とお呼びするほど喜ばれたものだ。その後、幸い儂は信長様に認められ、今日の地位となり、城持ちの大名にまで出世することができた。これからも信長様の「天下布武」を旗印に、真っ先かけて働き、益々出世して煕子を喜ばしてやろう。儂の理想も『天下の静謐』にある。

従って儂の目指すところと信長様の目指すところは全く一致しているのだ。そのためにも、今後とも儂の全精力を尽くして信長様に尽くさなければなるまい……。

3.十七箇条の異見書(いけんしょ)

信長

「光秀、今日呼んだのは他でもない、将軍義昭公のことである。義昭公には、以前お主を通して『五箇条の異見書』を示し、義昭公にご自身の行動を慎むよう申し渡ししたのに、一向に反省するところがなく、逆に最近は予の意向を無視する行動が目立つ、許すまじきことである」