例年、地元で活躍するアーティストを招いて文化祭ライブが開催されるのだが、赤星先輩はそれを頑なに拒否したからだ。先生方は「たまにはいいんじゃない」と許可した。無駄に経費を使わずに済むからだろう。

本番当日。控室で赤星先輩は、自画自賛のハスキーボイスで「女の子をメロメロにしてやる」と息巻いていた。俺が体育館の中をチラリと覗いて見ると、男子生徒よりも女子生徒のほうが圧倒的に多かった。

悔しいけれど、俺は赤星先輩がイケメンということだけは認めていた。さらに驚くことに、他校の制服を着た女子生徒もちらほら見えた。彼女たちも赤星先輩のファンだろうか。そう思うと、俺は嫉妬した。

「今日はオレの気が済むまで歌うからな」

赤星先輩は本番が始まると、メインボーカルとして喉が枯れるまで歌い続けた。俺たちは慣れないローラースケートを履いたまま足がつるまで踊りに踊った。転びに転んだ。充分な練習時間を確保できなかったので当然である。

大勢の女子生徒を前にしてどうして恥ずかしい思いをしなければいけないのか。まるで公開処刑ではないか。

こんな生徒会長は嫌だ! 

赤星先輩を反面教師に、俺は次年度の生徒会長に立候補すると、投票の末に対立候補を僅差で下し、当選を果たすのだった。

「赤星先輩じゃないですか!」

明王の声が聞こえたので振り返ると、正面玄関の前に明王、光司、幸広が立っていた。後ろには美保がいる。彼女が心配をして三人を連れてきたのだろう。俺が赤星先輩を嫌悪していることを知っているだけに、一触即発の事態になっているかもしれないと。 

「会いたかったです」

明王を先頭に、光司と幸広が足を弾ませてやってくる。

「私もです」

光司に続いて、「赤星先輩何かおごって~」と幸広が相好(そうごう)を崩す。俺は理解不能に陥った。文化祭であんな恥ずかしい思いをさせられたのに、この変わりようはなんだ。

特に明王。お前が一番嫌がっていたじゃないか……俺はふと思った。そういえば、みなが赤星先輩の命令を受け入れた理由を知らない。

「ウッス、赤星先輩。一緒に飲みましょう。今日はとことん接待させてください」

明王が赤星先輩の腕を掴み、引っ張っていく。タダ酒が飲めるとあってか、赤星先輩の足取りは軽い。

「実は相談したいことがあるんですよ~」

光司は媚びるような口調で、ハエのように手をすりすりさせている。相談事は仕事についてだろう。何が悲壮感だ。

「赤星先輩、何かおごって~」

幸広は食べることしか頭にない。

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