第三のオンナ、

まゆ実

母が読み返しているところを見たことがない。母が今、興味があるのは美容だ。

「相変わらずだね」

汚部屋に久しぶりにやってきたとき、わたしは思わずその言葉が出た。部屋の真ん中に母は座り込み、両手に持った古いガラケーを交互に見つめている。出入り口には、あの有名な片づけ本が置いてあった。

「ときめくような、ときめかないような」

ぶつぶつと呟いている。

「困ったわ~」

面倒な作業を任されたな。わたしは思った。自分で片づけたくないものだから娘に押し付けようという魂胆なのだろう。母は普段とぼけたような感じに見えて、意外、と言うのは失礼かもしれないが頭が切れる。人を使うのがうまい。

今は美魔女友達が我が家にやってくるが、PTA会長を務めていたときは、たくさんの取り巻きが毎日のように集まっていたものだ。残念なのは話題がもっぱら悪口だったこと。

しかも大声でぺちゃくちゃと話すものだから、わたしはうんざりした気持ちを引きずったまま自室で過ごしたのを覚えている。

「あらいたの」

呼んだくせに。

「わたしがやろうか」

「うれしい~」

わざとらしく笑みを作る。

「任せたわ。後でお小遣いあげる」

「でも、どうなってもしらないよ。本当に必要なもの。あるかもしれないんじゃないの」「あるかもしれないけど……ほら、ママって今何かと忙しいでしょ。判断できないのよ」 

言いつつ母は両手の爪先がよく見えるように広げて見せた。ネイルがきらきらと輝いている。

「手が汚れちゃうの~」

そして母は美魔女部屋に入った。いずれあっちも汚部屋になるんだろうな。そんなことを思いつつ、わたしは片づけを始めた。