第一話 ハイティーン・ブギウギ ~青松純平の巻~

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そのとき、救急車のサイレンが聞こえてきた。サイレンの音はだんだん大きくなり、こちらに近づいているのがわかる。と、鳴り止んだ。しばらく経ってから再びけたたましく鳴ると、小さくなっていく。何があったのかわからないが、現場はこの近くのようである。

「なんだなんだ? おーいみんな、ちょっくらいってみようぜ」

赤星先輩が言うと、明王、光司、幸広も追いかけていく。野次馬じゃあるまいし。そう思ったが俺もついていくことに。気になるというよりまた妙な胸騒ぎがしたのだ。

 

「健太じゃないか」

俺は遅れてやってくると、まさか息子がいるとは夢にも思わず、目を白黒させた。健太は膝を両手で抱えて座り、わなわなと身体を震わせている。健太を取り囲み心配そうな目を向けていた赤星先輩たちは、一斉に驚いた顔を向けた。

「ウブ平の息子?」

赤星先輩の問いに俺は頷くと、向こうでおばちゃん連中に聞き込みをしていた若い警察官が振り返った。

「あなたが父親ですか?」

警察官が近づいてくる。キリリとした面持ちで。

「詳しいことはまだわかりませんが、息子さんが老女とぶつかったというか、はねたようです。そこにある自転車で」

俺は絶句した。

丁字路のカーブに健太の青いマウンテンバイクが倒れていた。問題の事故現場は白百合亭の近くで、歩いていける距離だった。この一帯は防風林としてたくさんの松林が植えられていて、細い道路が縫うように走っている。丁字路は見通しが良いが、高くそびえる古い松林が醸し出す薄暗さと傾きかけた西日のオレンジがあいまって、なんともいえない不気味な雰囲気だった。

そんな気味の悪い場所だからか、俺は軽く駆けて身体が熱くなるはずなのに、むしろ寒気を感じた。ここは地元では有名なホラースポットなのだ。

警察官によると、老女は意識不明の状態で搬送された。怪我の程度は不明だが、後頭部が少し赤黒く染まっていたらしい。ぶつかった弾みで頭を地面に強く打ちつけたのかもしれない。

「おたくの息子さん、何も話してくれないから困っていたんですよ」

健太は人見知りだ。ましてや人身事故を起こした直後で、相手は警察官。動揺するあまり心を開けるはずもない。俺は健太の背後に回ると両脇の下に手を入れ、抱き起こした。

「ちょっと、そこの人! 自転車に触らないで!」

警察官が声を張り上げて誰かを指差した。俺は指先を見る。赤星先輩が無邪気な子供のような表情で、マウンテンバイクをためつすがめつ眺めていた。

健太はマウンテンバイクを街乗り用として使っていた。フレームにはドリンクホルダーが取り付けられている。事故の衝撃で流れ出たのかわからないが、ドリンクホルダーに挟まれているペットボトルは空っぽのようだった。

「触ってねーよ」

「とにかく近づかないでください」

だが、赤星先輩は無視する。

「オレ、生で見るのは初めてだからよくわからないんだけどさ、こういう事故調査ってどれくらいの時間がかかるもんなの? やっぱ夜通しやるのかな」

「すぐに終わると思いますよ。そもそもこれは悪質なひき逃げ事件ではありません。軽微な交通事故です。犯人はすでにわかっていますからねえ」

軽微? 犯人?

俺はカチンときた。怒りが爆発しそうなのを堪え、警察官に突っかかる。