第一話 ハイティーン・ブギウギ ~青松純平の巻~

4

大袈裟だなあ。俺が国家権力に楯突いたのはあの若造の警察官だけで、その他は全面的に協力した。仮に被害者が死亡したとして、多額の損害賠償を支払うことになったとしても、お金のことはなんとかするつもりだ。先祖には申しわけないが、青松家が代々守ってきた土地を売却しようと思う。

「そもそも、あなたが田舎に帰るなんて言い出さなければこんな事故は起きなかった。私たち加害者家族になるのよ! 犯罪者一家よ! そうなったら離婚よ!」

俺は理解した。不利なことって社会的影響だ。どんな悪影響が及ぶのか想像がつかない。

「僕、犯罪者になるの?」

背後から健太の声が聞こえた。俺は振り返ると、居間の出入り口に健太が涙目で立っていた。健太の隣には若葉もいる。二人ともいつの間に学校から帰ってきたのだろう。

「ち、違うのよ」

千香子が両手を前に出し、全力で否定する。

若葉は「違うって?」とよくわからないといった顔をした。

俺は、健太が人身事故を起こした事実を話していなかった。若葉は小学生の女の子だし、心配をかけないほうがいいだろう。千香子と相談してそう決めたのだ。

「犯罪者一家なんて嫌!」

そう言うと、若葉は二階に上がっていった。千香子が後を追い、階段を駆け上がる。気がついたら健太はいなくなっていた。

俺は慌てて表に飛び出すと、白いワンボックス車が家の前に停車した。スライドドアがゆっくりと開く。職員に手を引かれて母君江が降りる。デイサービスから戻ってきたのだ。

俺は職員と入れ替わるように母の手を掴み、軽く会釈(えしゃく)した。運転手がエンジンを始動させると車はゆっくりと発進した。

「母さん、健太見なかった?」

「見たよ、走っていくのを。また千香子さんと喧嘩? 喧嘩するほど仲が良い、っていうけど……特に夜中。よく言い合いしてるだろ。わたしが知らないとでも思ってるのかい?」 

母が寝ている間、俺は声のトーンを下げていたつもりだが聞こえていたとは思ってもいなかった。母は俺の手から離れ、庭に一本だけある大きな梅の木をしみじみと見つめた。