「女の子はお構いなしとしても、男の子はまだ赤ん坊。この先どうなるのでしょう……」

「公儀に知られないことだ。この話、陸奥守さまと、他には……」

重綱さまは手のひらを広げて指を折った。知っているのは数人ということなのだろうか。わたくしは心底ぞっとした。

「なぜ、わたくしに……」

そんな極秘の話を、という言葉を飲み込んでいた。こんな話は聞かせないで欲しい。

「お方は不思議な女子おなごよ。そなたと向き合うと、命を預け合うた友と語りおうているような気になってしまうのだ。わしは誰かに話を聞いてもらいたいのだ。このような秘密の話は誰にも言えぬ。お方にだけだ、話せるのは」

「なんと、命を預け合うのは夫婦も同じではありませぬのか?」

「いや、女子は信用ならぬ。裏切るつもりはなくともふと口を滑らすこともあろうし、知っていることを得意気に吹聴したくなることもあろう。わしもお方にだけ口を滑らせている。これでわしはこの話、忘れるぞ」

そんな秘密の片棒を担がされる女より、優しく懐に抱かれて、ぬくぬくと丸くなって守ってもらう方がいい。わたくしは身内を寂しい風が通り過ぎるような心地がした。わたくしの顔色をうかがっていたらしく、重綱さまは慌てたように言った。

「いや、女子と言ってもお方は別だ。いやいや、勘違いしてはならぬ、お方は女子だ、わしには過ぎた女子だ。父上が褒めた女子はお方一人よ。男に生まれておれば一軍の将たる器と言うておったぞ」

言い繕おうとすればするほど、褒めたつもりになればなるほど、その言葉はわたくしの気に障った。

「やはり女子は難しい」

と重綱さまは首を振った。

「一軍の将、というお言葉は、殿を奮起させようとのお気持ちから、わたくしごときの名を持ち出されたのでしょう」

「なんと、わしは常に奮起しておるぞ!」

そう言われれば、そのとおりだった。お殿さまには、せがれのそんなところが美点であると同時に、欠点と思われたのかも知れない。重綱さまは真剣な眼差しで、にらむようにわたくしを見つめていた。

「ご公儀はほんとうに気づいていないのでしょうか。男子が七、八歳になるまで気づかぬふりをするつもりでは……。生まれたばかりの赤子の首を斬るわけにもいかぬでしょうから」

「いやいや、赤子であればかえって容易いだろう。頼朝が静御前の産んだ義経の子をしいしたことを考えてみよ。ご公儀はまだつかんではおらぬ。関白秀次さまの娘が生き残っていたとは誰も思わぬであろう。その娘が左衛門佐どののお子を孕んでいたなどと、誰が想像するか」

「ご公儀の隠密は怠慢でございますな。伊達家の耳の方がすぐれているということですね」

わたくしはあえて訊ねなかったが、どこかのお家が匿っておいでなのだろう。太閤殿下と左衛門佐どのの細い細い血脈が、今につづいていると考えるだけで、わたくしは胸が震えるのだった。

【前回の記事を読む】なんと、大坂の町屋に火をかけるよう命じたのは、秀頼さまだった!