誰もが憧れる教皇聖歌隊への入隊…しかしその幸せは束の間の出来事だった

ジャンネット

四年後の一五五五年一月の事。　

「教皇猊下。恐れ多くも申し上げます。その件は反対申し上げます。どうぞ我々にお任せください」

システィーナ礼拝堂聖歌隊の年長者フランチェスコ・フェスタは、必死に教皇ユリウス三世に訴えた。

「もう決めた事だ。ジョヴァンニ・ピエルルイージを、直ちに聖歌隊に正式に入隊させる事にした」

「慣例をお守りください。先ず試験を受けさせ、その後我々歌手会で審議する事になっております」

システィーナ礼拝堂聖歌隊は、教皇聖歌隊と言われる教皇の個人聖歌隊であり、ローマカトリックの音楽界で最高位の聖歌隊である。楽長はおらず、全員が成人の男性である。他の聖歌隊と異なり、少年は使わず指揮者もいない。言わばプロ中のプロである。

「その理由をお教えください」

「それでは話しておこう。少々耳に痛いかも知れぬぞ。

過去にはこの聖歌隊の演奏技量は非常に高度なもので、メロディックな声は素晴らしく融和され、生じるハーモニーの美しさは世界に比類がないものであった。ところが、今では質の低下が甚だしく、他の聖歌隊と比べて劣る程の状態である。それ以上の低下を防ぐ為、私の寵愛する天才的音楽家を、私の聖歌隊に入隊させたい。これが理由じゃ」

教皇は典礼における音楽の重要性を誰よりも認識していた。七年間見つめ続けてきたジャンネットの才能と情熱を鑑みて、更に、昨年自分に献呈してくれた「ミサ曲集」に対する返礼も兼ねて、出された勅令であった。

だが、こうまで言われた聖歌隊のメンバーと、共に上手く呼吸を揃えて、より緻密なハーモニーを作り上げる事など出来るはずもなかった。

教皇聖歌隊への入隊は、誰しもの憧れであった。しかしジャンネットがその幸せを感じたのは、束の間の事であった。

三月二三日　ジャンネットは突如、最大の庇護者を失った。

ユリウス三世の死である。