特殊愛

事件当日。高橋と小森が別れたあと、高橋は脇腹をナイフで刺されて、その場で倒れる。意識が薄れていく中で会話が聞こえてきたらしい。

「前川さん、服が血だらけですよ、どうしたんですか?」

「みなみが、高橋の告白を受け入れたから殺したの。手を握って見つめあってた姿見たでしょ? みなみは私を裏切ったの」

「高橋だけやるって言ってたじゃないですか? アイドルグループを解散しないために。だから俺たち協力したんですよ」

「あと、前川さんの誤解ですよ。小森さんは高橋にちゃんと断ってましたよ」

「えっ、そんな……。嘘つかないでよ」声が震える前川。

「やばい。人が来た」3人はその場から走って逃げていった。

高橋は意識を失い、目を覚ました場所は病室。私に何かあったのではないかと、担任の先生に連絡をして、私の状況を知った。そして高橋は、前川と相澤と佐々木の3人の犯行だと確信した。何故、高橋があの3人のことを警察に証言しなかったのか……。それは、私が記憶を失ったから、このままの方がよいのではないかと思い、自分の中に秘めたのだという。

何故、今まで犯人を見つけられなかったのか、米田さんに尋ねた。それは、前川は私の第一発見者で、犯人ではないかと疑いはかかったが、直接証拠がなく不起訴になったからだった。そして相沢と佐々木は、公園の近くの防犯カメラの映像で確認されたが、高橋の見た犯人像とは全然違ったことと、相沢と佐々木に高橋を殺害する動機が見つからなかったため、容疑者から外れたのだと言う。

高橋は、私が社会人になってからも私を守るために同じ会社を選び、電車の時間も合わせ、食堂にも毎日行き続けたようだった。痴漢にあった時も誰も助けてくれない私を放っておくことができなかったのだ。

ある日、私はダンサーの人たちに道をふさがれて困っていた。そのダンサーが相澤と佐々木だとわかり、前川が私と接触していた姿を見て怪しいと思っていた。

そして数日後、実家から同窓会の案内状が届いていると連絡が来て、前川たちが何かを企んでると思い、高橋は3人の殺害を決行した。

米田さんは、涙を浮かべながら話をした。

「高橋優はあなたを守りたかった。告白をしなければ、こんなことにはならなかったと自分を責め続けた。この方法しか彼にはなかったのだとしたら、それが彼の愛の形、償いの愛なのかもしれないですね。あなたは、どう受け止めますか……」

私は、下を向き床に落ちていく涙の粒をみつめていた。

最終判決の日。

高橋は殺人の罪で無期懲役と決まった。

彼は私を守るために1人で苦しんでいた。彼に謝りたい。彼の顔が浮かぶ、彼に会いたい。