ぼく達一家が立ち退いてすぐに、改築が始まっているのがわかった。竹の垣根が外されて白いペンキ塗りのピケットフェンスが家の敷地を囲って巡らされた。それまではすっかり塗りの剝がれたままになっていたベランダが赤とグリーンの二色に塗り換えられた。一週間ほどして通学の途中に見ると、門柱に横文字の表札が埋め込まれ、その下に真鍮の郵便受けが取り付けられていた。

そして門の脇と両側のフェンスに立札があった。

―許可なく立ち入った者は日本国の法律により罰せられます―

しかし、それからしばらくの間、その家には人の気配がなかった。

昭和二十年は日本の歴史を包み込んだまま間もなく終わろうとしていた。戦争中は禁止されていた「ジングルベル」のメロディーが陽気に慌ただしくバラック建ての街に流れていた。学校はもう冬休みに入っていた。

その日は冬には珍しく暖かい風のない日で春が一足先に来たような、そんな錯覚さえ起きる晴れた日だった。ぼくは『家』の前に来て、門が久しぶりに開いているのに気が付いた。玄関のそばにクリーム色の、ジープとは全然違う自動車が止まっていた。ぼくはフェンスに沿って南側にまわった。そして庭を覗き込んだ。

庭には寝椅子みたいなものが出してあった。誰かがその上で眠っていた。それは女の子だった。ブルーの洋服を着ていて金髪が長かった。よく見ると眠っているのではなく日なたぼっこをして本を読んでいるのだった。ぼくの胸の中に説明が付かないような怒りが突然こみ上げてきた。それはあまりにものどかな風景だった。

女の子が何歳くらいなのか咄嗟にはわからなかったが、金髪の下の顔はぼくより二つか三つ上のようにも見え、また、二十歳近いようにも見えた。太陽は真上にあった。葉の落ちた冬枯れの欅の枝が輝いて、遠くで鳥が鳴いていた。

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「おにいちゃん」

ぼくの中に突然妹の声が蘇ってきた。するとぼくの視線は雲の影一つない青い空の中に吸い込まれた。