【前回の記事を読む】車が炎上…162億円の賠償金は、事故の相手ではなく「車メーカー」

第1章 小さな政府と[民活] ――民事訴訟を促して社会問題を解決

<事例>「人命と利益を天秤に」で巨額賠償――「フォード・ピント・ガソリンタンク訴訟」

「フォード・ピント訴訟」の1億2500万ドル(162億円)の懲罰的損害賠償額の評決が出ると、法律の専門家からはいくらなんでも高すぎると批判の声があがりました(減額されたことは既述の通りです)。

また「ピント・メモ」は、当局が自動車安全設計の基準を引き上げようとした時、フォード社がそれに反論するために作った資料で、ピントの開発や改善に直接は関係ないことがわかっています。

人の生命やケガを金銭に換算する感覚は一般の人から見れば目を剥くものかもしれませんが、保険の設計などでは行われていることでもあります。

また、エンジニアリングの世界では2つの要素がトレードオフの関係にある時、どちらをどれほど採り入れるべきか、数値に換算して比較することは珍しくありません。課題に取り組む時、何を優先すべきか。データを取り「有意である」ものを優先し、「有意でない」ものは優先順位を下げる、あるいは切り捨てる。これもまたエンジニアリングをはじめ、多くの分野で判断の方法として用いられていることです。

陪審員はそこまで理解した上で高額な「懲罰的損害賠償」を課したのでしょうか。単に被害者に過剰に肩入れしただけなのでしょうか。この疑問はその後の訴訟でも問題になっていきますが、おいおい触れていくことにします。