第一章 晴美と精神障がい者

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戻ってみると、鈴岡編集次長と中川営業部長と編集部員二人が次々と帰ってきた。鈴岡は午前中は取材のため、昼食を頬張りながら文章の整理をやっていた。

「ご苦労さま」

主任の津田が晴美に声を掛けた。

「今日は少し手応えを感じた所があったんです」

晴美は嬉しそうに言った。

「そう、それはよかったわね。さすがに正社員になっただけの能力が備わっているわ」

津田は笑顔で返した。彼女は弁当を広げて食べている。晴美は、「食事に行ってきます」と言って、財布だけをネイビーブルーの巾着に入れて、歩いて五分ほどの食堂へ一人で行った。

晴美は若いので、食欲旺盛だ。豚カツ定食を頼んだ。食べ物と値段が書いてある表を見ながら、次回は何にしようかなとうきうきする気持ちを抱いていると、豚カツ定食の匂いがした。お腹がそれを欲していた。カツの食感を味わいながらゆっくりと食べた。目の回るような回転の速さの中に身を置いている晴美にとって、昼食ぐらいは落ち着いて食べたかったからだ。

沢庵二切れを口に入れると、豚カツの脂っこさが消えた。お茶は色もよくない不味いものだが、ゆっくりと疲れを取り払うように口に含む――。

職場に戻ると、津田はもういなかった。晴美は昼休みもろくろく取れない職場だな、と思った。これがタウン誌の会社で働くという現実なのかもしれない。

鈴岡は相変わらず昼食を頬張りながら、取材の整理をしている。川木編集長は南側に位置する大きな机にどかっと座っていた。何か記事を書いているのか、ペンを忙しく動かしていた。

パートの編集員はもういない。パートの営業員も、もちろん職場に帰らず、適当な場所で昼食をとっているようだ。