家族と夫と私

結婚から間もなく家族が増え、そして時は経ち、夫は漁師として任せられる仕事も増え、大黒柱としての重圧が彼の口から聞かずとも態度で現れてきた。彼はきっと見栄張りで亭主関白で厳しくも優しい人であることは、また後ほど紹介する。

夫婦から家族になり、父としての重圧からだろうか私から彼を客観的に見るとしたら、次男が生まれる前後から徐々に酒の量が増えていた。

長男が生まれてからは、私も仕事と育児との両立はもちろん初めてで、結婚当初は晩酌を交わしてはいたが、次の日の仕事に支障が出ないかを考えると休みの前日でないと晩酌すらしなくなった。インシデントとアクシデントも念頭に置くと、それが患者さんの命に関わる人的ミスに直結したら……と恐怖心があったからだ。

夫は仕事に関しては、本当に休まず行くし、たまの休肝日は子煩悩。優しさが見え隠れする人だ。ほぼ家事はしないし、気が向いたら育児参加の父親である彼は、「俺の役目は子どもたちがでかくなってからだ」。その完全に要約集約している言葉が口癖だった。

一方、私はというと、彼の理想に近づくために、働いて家事もして、育児をし、仕事に差し支えることのないように次男が生まれてから飲酒もしなくなり私の家庭内の役割は、ほぼ母をしているが妻としてはゼロだった。そんな妻なのに、夫の理想に順従な女性、妻、母だと思っていた。長男が生まれてから投げかけられる言動がさらに強くなり、理想からの逸脱が嫌で怖かったのかもしれない。

いつも私に本当に厳しい彼は、プレゼントをせがんでも、「いずれ家を建てるのだから要らないだろ?」と常に言っていた。誕生日だろうが結婚記念日だろうがなんにも彼からはない。次男の誕生から半年後、本当に夢のマイホームを建てた。明くる日もせっせと共働き。数年後、いきなりプレゼントされたのは、プレナイトという天然石のネックレスだった。なぜかいきなりなんの記念でもないのに。プレナイトは、真実を見抜く力をそなえた、粘り強く芯の強さをもたらす石。プレゼントされたときは意味も調べもしなかった。きれいなマスカット色の石は、夫からの唯一のプレゼントだったから常に身につけるようになった。本当に嬉しくてたまらなかった。

慌ただしく毎日を送り、いつか老人にでもなった時にふたりで日本全国巡りたいもんだと、今家族で旅行するよりも将来行けたらいいなぐらいに考えながら、時が経つにつれて、私は母としての役割が中心で仕事に気を張って生活していた。