風よ
茅が風にふるえてる
今はもう忘れてしまった
遠い思い出のごとくに
はらはらと蝶が行く
二匹たわむれながら
そして又今日も
雲が流れていく
おおい風よ
若葉をきらめかせて
過ぎゆく風よ
時をかえせ
その昔、気だるい午後に
夢見てたあの時を
そしてあの幸福な気分を
あの時を旅立って
さびしさの森をさまよい
空しき沼をただよい
言い出せぬ恋に苦しみ
涙を出さずに悲しみ
そして今、静かにも
たたずんでいる ──
茅が風にふるえてる
今日も又、
雲が流れていく
作品集「黒い花Ⅱ」より三作品
あの女(ひと)の目、あの女(ひと)の胸――それが私を惑わす。繊細な詩と艶やかな油彩画が織りなす珠玉のアンサンブル。※本記事は、大伴健氏、長友良憲氏の書籍『黒い花Ⅱ』（幻冬舎ルネッサンス新社）より、一部抜粋・編集したものです。
