「島本さんね、お仏壇置いたそうだから、明るいうちにお線香あげてきなさい」

突然そう言われて、何のことか理解が追い付かなかったが、「あんた、紗世子ちゃんと仲良かったでしょ」

そう付け足されて、ようやく母の言っていることを理解した。カレー皿を手にしたまま、母を振り返り、硬直してしまう。さあと全身の血液が引いていく感じがした。

こんなこと、去年まではなかった。この七年間さよちゃんの家に仏壇が置かれるなんて話、一度も話題に上がらなかった。噂や、その兆しすらなかったのに……。それがなぜ? 七年目の夏にいきなり? 

最悪の事態に思い当たり眩暈がする。さよちゃんの仏壇が置かれる……それはつまり、さよちゃんの両親がさよちゃんの死を認めたことになる。

つまり、つまり、ああ……まさか、「見つかったの?」

行方不明扱いになっていたさよちゃんが遺体として見つかった。さよちゃんの死体が見つかった! そうとしか考えられない。私の中で、七年という長い時間をかけて積み上げてきた物が一瞬で崩れ落ちていく感触があった。それに伴い体から力が抜け、膝をつきそうになる。

私の緊張感が伝播したのだろう、母は返事を戸惑っているようだった。口にする言葉を、時間をかけ慎重に選んでいる。しかしその逡巡も数秒で、すぐに私の目を見、口を開こうとする気配がした。

目を凝らし、母の唇がどう動くか注視する。なんと言うのか聞き逃さないように、自分の音を止め言葉の衝撃に備えた。しかし、唇よりも先に動くものがあった。頭だ。母は、頭を横に何度か往復して見せた。

「いいえ……でも、七年以上経ったでしょ?」

思わず息を呑む。

「失踪宣告が下りたのよ」

口惜しそうに顔を歪めた母が俯く。そのおかげで、私は安堵した顔を見られずに済んだ。
 

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