先にも述べた通り、彼女と遊ぶ時は大抵外で、それも家の裏手にある山に入ることがほとんどだった。そこで私たちは文字通り山を駆け回り、木に登ったり、秘密基地を作ったり……おおよそ男子がするような遊びに興じた。

遊ぶ内容を提案するのはいつもさよちゃんで、私はそれを無条件で受け入れるだけだったけれど……。

「ゆかちゃん! 木のうえにとりの巣がある! のぼってみよう!」

「落ちてるえだいっぱいあつめて、やねにするから」

「うえまできょうそうね!」

「あっちの山のほうがたかいねー?」

「この花はねーユリっていうんだって! きれいだね! ……あ! あっちにもさいてる!」

「さっきのちょうちょどこいったのかな?」

客観的に見れば、それは「一緒に遊んだ」と言うよりも「引っ張り回されていた」というほうが正しい気がする。しかし、楽しかったことは間違いない。

確かに彼女の──都会から引っ越して来たとは思えない自然への順応とアグレッシブさには面食らったけれど、我儘といえるぐらい強引なところも彼女の魅力だと、当時の私はそう思っていた。本気で。それに魅かれていた。

「そういう時期が……あったかしらねえ?」

さよちゃんがわざとらしく老人の声真似をする。

「おばあちゃん、ぼけるには早いでしょお」

のりに合わせて、こちらもしゃがれた声で返す。二人して吹き出した。

そういう外遊びも小学生までで、お互い中学に上がってからは、山に入るのは軽く散歩する程度になったけれど。それを残念とは思わない。さよちゃんには、今みたいに、部屋の中で本を(めく)っているほうが似合っている……私はそう確信しているから。

まるで親が子供の成長具合を評価するみたいな、偉そうな言い回しになってしまったが、別にそういうことではなくて、単にビジュアルの問題だ。

山を駆け回る彼女は好きだが、さよちゃんは(少なくとも当時は)あまり自分を顧みない子だった。枝葉で掠り傷ができたり、転んだり、虫に刺されて白い肌に痕が残っても、気にせず木々の隙間を走り抜けた。日焼けする体質ではなかったから、いつもやけどしたみたいに火照る肌と、体に残る小さい傷を見るたび、悔しいような……もったいないような思いが胸に灯った。本人はまったく気にしていなかったから、なおさら。

小さい頃から体を動かすことが大好きで、中学では陸上部に所属していたさよちゃんが、どんな理由で宗旨替えしたのか知らないけれど、私にとっては好ましい変化だったから、その理由を訊くことはしなかった。

案外私の身長と同じ理由なのかもしれない。単純に、成長した。それだけ。