しばらく登山道を上がって行くと不意に階段が途切れ、展望台に着いた。

展望台というと大袈裟で、登山道の折り返しの開けた場所に、木製の四阿(あずまや)が建っているだけの簡素なものだけど。視界を遮る物がない分、景色は良くて、村を囲む大きな山々の稜線を一望することができる。風の通りも良い。

ここまでの道程でさんざん火照っていた体は、圧迫感のある山道から解放されたということもあって、そこを吹く、いつもより空に近い風を浴びた途端すっかり弛緩していた。

歩みを止めた私を余所に、さよちゃんはさっさと先へ進む。

図書委員に入ったといっても陸上部だった頃の体力はまったく衰えていないようだ。慌てて後を追った。

さよちゃんは頂上へ続く階段──には向かわず、登山道から外れた、草木の生い茂る斜面を登っていく。すいすいと、現住の獣みたいな気軽さで木々の間を歩いていき、何本目かの木を越えた辺りで姿が見えなくなった。

さよちゃんの姿が消えてしまっても私は焦らない。茂みの隙間を縫うように伸びた細い導線を辿り、それと幼い頃の記憶を照らし合わせながら、ゆっくりと確かな足取りで斜面を登る。

さよちゃんが消えた辺りは木の並び方のせいか茂みが壁のように伸びていて、気をつけていなければ道を見逃してしまっただろう。そこに道があるとわかっていても入るのは難しい。知らない人なら、まずその先へ進もうとは思わない。そういうところが私たちは気に入っていて、そこを秘密基地に選んだ。

ただ……理由はもう一つある。

木と茂みのわずかな切れ目を探し身を滑り込ませる。

自然のトンネルに入ると蒸し暑い空気に迎えられ、思わず顔をしかめる……が、それもわずかのことで、すぐに開けた場所に出た。そこはさっきの展望台とまではいかずとも広さのある、立木が避けた空き地で……けれどただの原っぱというわけではない。

そこには百合の花が群生していた。

山の隙間に生まれた小さなお花畑。それが私たちの秘密基地。

ここを選んだ、もう一つの理由だった。