神社にて

山の麓の小さな神社に あの女ひとは「入ってみよう」と私の手を引っぱった

あの女ひとの黒い髪が光にゆれていた

何の変哲も無い荒れた神社に「私こういうのが好きなの」と床の上まで上がって御神体をのぞいている

私の腕を取って幸福そうに微笑みながら あの女ひとは自然に手を合わせた

昔から誰もがするように、だが私にはできない

初めての初詣での年に弟を失ったから 手を合わせない訳はあの女ひとには言わない

しかしあの女ひとは別に不思議そうな顔もせず 何か幸せそうに笑っていた、あの午後 ──