生命は、日常に使われていることばですが、ウイルスの出現や遺伝子工学の発展によって、生物学的に「生物とその生命」を正確に定義することはとても難しいのです。通常は、物質代謝やエネルギー代謝をして、自律的な生活機能をもち、自己増殖するものを生物といい、その活動の原動力を生命といっています。

細胞説が提唱され、すべての生物体は、細胞から構成されていると定義されて、細胞の構造とそのはたらきが顕微鏡によって、詳しく観察し研究されました。

細菌などの単細胞生物は、たった1個の細胞だけで養分を摂取して物質代謝を行い生命力を発揮し自己増殖します。動物や植物の体は、細胞の集合体です。

花芽をもつ枝を花瓶で開花させられるし、植物は挿し木で立派な個体に成長します。進化した高等動物でも、その組織細胞だけ取り出して培養液で生かして増殖させることが可能なので、医学の分野では組織培養したものを使って損傷した箇所の外科の治療がおこなわれています。

つまり、細胞一つひとつが生命体なので、組織培養では生体内と同じ状態で栄養や酸素を供給して、細胞を増殖できるのです。

したがって、生物学では「すべての生命体は細胞から成っており、生物の最小単位は細胞である」と言われてきました。ところが、ウイルスには細胞がないので、生命体の最小単位を細胞とする概念から外れる存在で無生物扱いされています。

だが一方増殖や感染を論じるときには、ウイルスは、感染者の細胞内で生きているとか、アルコール消毒で死滅するなどと細菌同様の生と死の扱いがなされているので、ウイルスが無生物なのに「命があるもののように死滅するのですか?」という質問が出るのです。

このようにウイルスを含めた生命論議は難問なのです。